大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)1154号 判決 1994年8月26日
原告
上野博之
外二四名
右原告ら訴訟代理人弁護士
井上二郎
同
中北龍太郎
同
黒田建一
同
水島曻
右原告ら訴訟復代理人弁護士
上原康夫
同
中島光孝
被告
日本国有鉄道清算事業団
右代表者理事長
西村康雄
右訴訟代理人弁護士
天野実
右訴訟復代理人弁護士
信藤秀樹
同
野口大
右訴訟代理人
福田一身
同
三国多喜男
同
西上明文
同
橋本公夫
主文
一 原告らの当初の請求及び本件担務指定による債務不履行を理由とする請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告らに対し、各金一〇〇万円及びこれに対する別紙当事者目録原告番号1ないし3の原告ら(以下、第一次原告らという。)については、昭和六一年八月二六日から、別紙当事者目録原告番号4ないし25の原告ら(以下、第二次原告らという。)については、昭和六二年二月一四日から各支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、国鉄労働組合(以下、国労という。)組合員である原告らが、①被告(旧名称・日本国有鉄道)の被用者である新幹線総局長が原告らに対し、元の職場勤務を免じ、同時に新幹線大阪保線所長が人材活用センターへ担務指定したことは、被告が新幹線総局長及び新幹線総局大阪保線所長をしてなさしめたものであり、あるいは同局長らがそれが違法な行為であることを知りながら、被告の業務執行としてなしたものであり、これによって原告らは精神的苦痛を被ったこと、②第一次原告らが、右局長が同原告らに対し、元の職場勤務を免じ、同時に右大阪保線所長が人材活用センターへ担務指定する旨の事前通知をしながら、その後、右担務指定を撤回したが、元の職場勤務を免じる旨の事前通知を撤回しなかったため、同原告らは、①記載の担務指定を受けるまでの間勤務場所が定まらず精神的苦痛を被ったこと(第三二回口頭弁論において追加主張)、③右人材活用センターが廃止されたにもかかわらず、被告が原告らを右担務指定前の職場へ戻さず、従来従事していなかった職種へ配属したことによって精神的苦痛を被ったこと(第三二回口頭弁論において追加主張)を理由に、被告に対し、いずれも民法七〇九条又は七一五条もしくは四一五条(第三五回口頭弁論において追加主張)に基づき、慰謝料として各一〇〇万円とこれに対する訴状送達の日の翌日(第一次原告らにおいては昭和六一年八月二六日、第二次原告らにおいては同六二年二月一四日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 当事者間に争いのない事実等
1 当事者
(一) 日本国有鉄道は、鉄道事業やその付帯事業の経営などを行うため、日本国有鉄道法に基づき設置された公法人であり、昭和六二年四月一日付けで日本国有鉄道改革法、日本国有鉄道清算事業団法などによって、被告日本国有鉄道清算事業団に組織及び名称が変更された(以下、清算事業団に移行する前の被告を「国鉄」という。)。
(二) 原告らは、国鉄職員として新幹線総局大阪保線所(以下、大阪保線所という。)に所属し、別紙一覧表(一)勤務箇所・職名欄記載の職場において同表業務内容欄記載の保線業務に従事していた。また、原告らは、国労大阪地方本部新幹線支部大阪保線所分会(以下、分会という。)に所属し、原告らの国労における役職歴は、別紙一覧表(二)記載のとおりである(甲一五三ないし一七四、原告森山、同前田、弁論の全趣旨)。
2 大阪保線所の組織及び業務内容
原告らが所属する大阪保線所は、東海道・山陽新幹線を統括する新幹線総局(その長は新幹線総局長)が直轄する現業機関であり、その下に業務機関として大阪支所、京都支所、神戸支所が置かれ、右支所の下に管理室や分所が置かれている(乙一七、証人来島、同片山)。
大阪保線所の業務は、新幹線の線路及び線路付帯施設等の保守・管理であり、具体的には、レール、枕木、バラスト等の保守・管理・交換等や線路に付帯する建造物乃至構造物(橋梁、架道橋等)や付帯施設(バラスト止め、線路防護柵等)の維持・管理及び線路に付帯する用地の保守等である。そして、原告らが発令されている職名に対応した職務内容は、重機保線係が「保線用機械、保線用機材等の運転、検査及び修繕並びに線路、線路附帯の建造物及び用地に関する作業」等、保線副管理長が「線路の検査及びこれに関連する修繕作業並びに計画、指示、連絡及び技術指導、線路、線路附帯の建造物及び用地の監視並びにこれらに関する業務の計画及び技術指導」等、技術係が「線路及び線路附帯の建造物の保守及び施工に関する技術業務」等、保線管理係が「線路の検査及びこれに関連する修繕作業並びに線路、線路附帯の建造物及び用地の監視、線路及び線路附帯の建造物の保守及び施工に関する技術業務」等である旨定められている(乙七一)。
3 人材活用センターの設置と原告らに対する同センターへの担務指定
(一) 国鉄は、昭和六一年六月二一日付けで各地方機関に人材活用センターの新設を指示する通達を出し、同年七月一日、人材活用センターが全国一斉に新設された。人材活用センターの設置趣旨・目的等については、次のように説明された。
(1) 昭和六一年度の余剰人員は、全国で約三万八〇〇〇人であり、現在進めている合理化が完了した時点では八万人を遥かに上回る余剰人員が発生することが予定されている。これを総局・鉄道管理局でみても、現在の三万五〇〇〇人規模から、七万人強と倍以上の規模に膨らむことが必至であるという情勢である。
しかも、この余剰の状態は、改革のための諸作業が進展していく中において、希望退職による減少要素が見込まれるとしても、顕著な形で解消させていくことは不可能であり、一方有効活用という面において飛躍的に拡大を図っていくことも困難な状況である。
したがって、もしこのまま放置しておけば、それぞれの職場において、大量の職員のブラ日勤が生じることは必至であるため、七月一日以降、一斉に体制を整え、順次以下の要領で要員運用を行うこととする。
(2) 現業職員については、所要を上回る人数(調整策に充当している分を除く。)を分離し、原則として、集中的に一括管理を行うこととする。
ア その際、○○駅、△△区の「人材活用センター」という形の統一的呼称とすることとする。
イ 職場環境に配慮し、必要なスペースを確保することとする。
ウ 「人材活用センター」への配置に当たっては、一般的異動又は兼務により○○駅や△△区に配置した上で、「人材活用センター」への担務指定を行うこととする。
エ 「人材活用センター」には必要な管理者を配置することとする。
オ 現存する余剰人員については、八月末までに配置を完了させ、所要を上回る人数の増加にあわせて逐次配置することとする。
(3) 「人材活用センター」に配置された要員については、いやしくもブラ日勤との指摘を受けることのないよう教育も含め有効な活用方を図ることとする。
(4) 所要を上回る人数が莫大なものになると、短期間のローテーションを組んで運用を行っていくことは業務運営上煩瑣であり、効率的な運用を阻害しかねないため、有効な活用方を図る必要性から、当分の間、継続した安定的な運用に努めることとする。
(5) 活用策の具体例としては、団体旅行の募集等の増収施策、不要物撤去等の経費節減、教育、用地管理業務等が挙げられている。
(二) 大阪保線所においても人材活用センターが設置され、次のとおり、原告らに対し、新幹線総局長は、在勤場所を免じ又は命じる旨、大阪保線所長は、「人材活用センター担当に指定する。」旨の各通知(第一次原告らについては、新幹線総局長の昭和六一年七月一〇日付け及び大阪保線所長の同月二一日付けのもの)をした(以下、本件担務指定という。)。
すなわち、第一次原告らに対し、新幹線総局長は、昭和六一年七月三日、昭和六一年七月一〇日付けで鳥飼在勤を免ずる旨、大阪保線所長は、「人材活用センター担当に指定する」旨の各事前通知をし、同月四日に大阪保線所長名の右事前通知を一旦撤回し、同月一〇日、新幹線総局長は、鳥飼在勤を免ずる旨の発令通知をし、同月一六日、大阪保線所長は、同月二一日付けで「人材活用センター担当に指定する」旨の通知をし、同年一一月七日、新幹線総局長は、同月一三日付けで鳥飼在勤を命ずる旨の事前通知をするとともに、同日付けで同内容の発令通知をし、新幹線総局長は、第二次原告らのうち原告中田、同大石、同牧野、同森村及び同松原に対し、同年一〇月二三日、同年一一月一日付けで鳥飼在勤を命ずる旨の事前通知をし、同月一日、同日付けで同内容の発令通知をし、原告松尾に対し、同年一〇月二三日、同年一一月一日付けで鳥飼在勤を免ずる旨の事前通知をし、同月一日、同日付けで鳥飼在勤を命ずる旨の発令通知をし、原告青木に対し、同年一〇月二三日、同年一一月一日付けで魚住在勤を免ずる旨の事前通知をし、同月一日、同日付けで魚住在勤を免じ、神戸在勤を命ずる旨の発令通知をし、原告池上、同宮下、同上田及び同三代に対し、同年一〇月二三日、同年一一月一日付けで神戸在勤を命ずる旨の事前通知をし、同月一日、同日付けで同内容の発令通知をし、原告行實に対し、同年一〇月二三日、同年一一月一日付けで魚住在勤を免じ、神戸在勤を命ずる旨の事前通知をし、同月一日、同日付けで同内容の発令通知をし、原告田辺、同前田、同村井、同細木及び同猫垣に対し、同年一〇月二三日、同年一一月一日付けで栗東在勤を免ずる旨の事前通知をし、同月一日、同日付けで同内容の発令通知をし、原告山田に対し、同年一〇月二三日、同年一一月一日付けで野州在勤を免ずる旨の事前通知をし、同月一日、同日付けで同内容の発令通知をし、大阪保線所長は、第二次原告らに対し、同年一〇月二三日、同年一一月一日付けで「人材活用センター担当に指定する。」旨の通知をした。
その後、原告らは、昭和六二年三月四日、大阪保線所長から同月一〇日付けで「人材活用センター担当の指定を解く。」旨の通知を受け、同月一〇日、新幹線総局長から同日付けで、第一次原告及び原告中田、同大石、同牧野及び同森村は、営業部兼務を命ずる、鳥飼在勤を免ずる旨の発令通知を、原告松原、同青木、同行實及び同猫垣は、営業部兼務を命ずる、神戸在勤を命ずる旨の発令通知を、原告松尾は、岡山保線所神戸支所施設管理係を命ずる、鳥飼在勤を免じる、西明石在勤を命ずる旨の発令通知を、原告池上は、神戸在勤を免じる旨の発令通知を、原告宮下、同上田は、大阪保線所大阪支所技術係を命じる、神戸在勤を免じる旨の発令通知を、原告三代、同田辺、同前田、同細木、同吉田、同杉江及び同来住は、営業部兼務を命ずる、京都在勤を命ずる旨の発令通知を、原告山田は、大阪保線所土木技術係を命ずる旨の発令通知を、原告吉川は、施設部環境管理室大阪分室課員を命ずる旨の発令通知をそれぞれ受けた。
4 原告らの人材活用センターにおける勤務
原告らは、本件担務指定に従い、第一次原告らにおいては同年七月二一日から、第二次原告らにおいては同年一一月一日からそれぞれ同六二年三月一〇日に人材活用センターが廃止され、原告らに対する本件担務指定が解除されるに至るまで人材活用センターに勤務し、別紙一覧表(三)記載のとおりの用地管理業務等に従事した。
二 原告らの主張
(原告らの当初の請求(以下、旧請求ともいう。)の請求原因)
本件担務指定は、次のとおり違法な行為であり、原告らは、本件担務指定によって人材活用センターに配属されたことにより精神的苦痛を被ったもので不法行為を構成する。
1 本件担務指定が手続上違法・無効であることについて
国鉄が原告らに対して本件担務指定に命じるためには、労働契約上の合意ないしは労使間の合意が必要であるところ、本件ではこれらの合意がなく、本件担務指定は無効である。また、本件担務指定の性質は、配置転換であって重大な労働条件の変更であるところ、従前から配置転換については、労使協議の慣行があるにもかかわらず、国鉄は、団体交渉に応じないまま一方的に本件担務指定を強行したものである。
よって、本件担務指定は、手続上違法・無効である。
2 本件担務指定が不当労働行為であって違法であることについて
(一) 国鉄の国労に対する不当労働行為意思の存在
(1) 国鉄と国労との労使対立について
原告らの所属する国労は、労働条件の改善、労働基本権の確立、国鉄経営の民主化、交通機関としての公共性の発展等を綱領に掲げ、かつ、その実現に向けて活動してきた。そのため、国鉄と国労とは、長年にわたって様々な局面で激しく対立してきた。その著名な事例が職場の団交=現場協議制、いわゆるマル生問題、ストライキ権奪還ストライキをめぐる対立である。昭和四五年前後に発生したマル生問題は、国労等は、国鉄が生産性向上を理由に国労等に対する様々な不当労働行為を行っているとして、公共企業体等労働委員会(以下、公労委という。)に救済申立てをして救済命令を得、また、国会で国鉄総裁の陳謝を経て、マル生問題は中止となった。昭和五〇年、国労等は、ストライキ権を確立することを目的に、八日間にわたってストライキを実施したが、これに対し、国鉄は、多数の組合員を懲戒処分に付し、かつ、国労に対し、二〇二億円の損害賠償訴訟を提起した。
このような労使対立は、国鉄分割・民営化の動きが始まった昭和五六年以降深刻となっていった。
(2) 分割・民営化に対する各組合の対応について
国労は、国鉄の分割・民営化に対し、公共交通としての国鉄と国鉄労働者の雇用と労働者の権利を守るという立場から、運賃など利用者の負担が増し、採算性重視によって交通の安全性が損なわれ、非採算性区の廃止により国民の足が奪われることなど公共交通の機能低下や解雇・退職者が激増し、労働条件が低下すること等を理由に、反対の立場を基本方針とした。国鉄動力車労働組合(昭和二六年結成)(以下、動労という。)、全国鉄施設労働組合(昭和四六年結成)(以下、全施労という。)及び全国鉄動力車労働組合(昭和四九年結成)(以下、全動労という。)も国鉄の分割・民営化に反対の立場を採った。
そして、右四組合は、昭和五七年三月、国鉄の分割・民営化に反対すべく、国鉄再建問題四組合共闘会議(以下、共闘会議という。)を結成し、以後共同して活動した。
これに対し、鉄道労働組合(昭和四三年結成)(以下、鉄労という。)、全日本鉄道労働組合総連合会(昭和六二年結成)(以下、鉄道総連という。)及び日本鉄道産業労働組合(昭和六二年結成)(以下、鉄産労という。)は分割容認の立場を採り、また、動労は、昭和六一年二月ころから一転して分割・民営化容認の立場を採った。
分割・民営化を前提とした国鉄の施策のほか、余剰人員対策、合理化及び組合活動制限等の国鉄の諸施策をめぐって、各組合間で対応に違いが生じた。国労は、こうした国鉄の諸施策に対し反対の立場を採ったため、当局との対立は一層激しくなり、このような状況下で国鉄の国労に対する不当労働行為、各組合間差別が続発した。
(3) 職場規律を理由とした組合活動への規制について
運輸大臣は、昭和五七年三月四日、国鉄に対し、「国鉄再建のためには、国鉄の労使関係を健全化し、職場規律の確立を図ることが必須の条件である」として、「総点検を講じるよう」指示した。これを受けて国鉄は、同月五日、勤務時間中の組合活動、リボン・ワッペンの着用、現場協議制の運用実態など約六〇項目にわたる職場規律の総点検を実施するよう通知した。以来、総点検は、第一次から昭和六〇年の第八次総点検まで繰り返し行われた。しかし、国鉄は、総点検の実施として、就業時間中の組合活動の禁止、職場集会のための構内空き地の提供拒否、組合掲示板の管理の強化、組合事務所での組合旗の掲揚の禁止、組合事務所の明渡し要求及び実力撤去等を行い、これに抗議した国労組合員に対し、昇給延伸等の処分がなされた。これらの処置は、労働組合の活動を大きく規制するものであり、かつ、労働組合の合意を得る努力すらせずに従来の労使合意や慣行を覆すものであって明らかに行き過ぎた行為である。
(4) 職場協議制の破棄について
昭和五七年七月一九日、国鉄は、これまで各組合と締結していた現場協議についての労働協約の改定案を提示し、同年一一月三〇日までに交渉が成立しないときは同協約を破棄する旨通告した。動労らは、これを受け入れたのに対し、国労及び全動労は、反対したので妥結に至らず、同年一二月一日以降両組合との同協約は失効した。
(5) 雇用安定協約の破棄について
国鉄は、昭和六〇年一一月三〇日、国労に対し、この日期限切れとなる雇用の安定に関する協約(以下、雇用安定協約という。)を再締結できないと通告し、同年一二月一日から無協約となったが、一方で、動労・鉄労・全施労との間には同年一一月一三日、雇用安定協約の締結をする差別を行った。
国鉄は、昭和六一年一月、国労に対し、労使共同宣言を提示し、その締結を求めた。その内容は、ストライキ権を否認し、リボン・ワッペン着用禁止を求めるとともに、国鉄の分割・民営化の容認を求め、希望退職について組合自らに選別を求めるもので、いずれも労働組合としての権利を否定するもので拒否するしかないものであった。
(6) 進路希望アンケート調査について
国鉄は、昭和六〇年一二月、国鉄職員全員を対象として今後の進路についてのアンケートを実施し、昭和六一年一月六日までに回答を求めた。右アンケート内容は、分割・民営化を既定事実として、分割・民営化に賛成か、反対かの踏み絵を踏ますようなものであり、とりわけ分割・民営化に反対している国労組合員にとって自らの信条を踏みにじられる内容であった。
(7) 職場掲示板への支配介入、制限について
国鉄は、各地方機関の労務担当課長宛に昭和六〇年七月一一日付けで「施設の使用等に関する便宜供与の見直しについて」を、昭和六一年二月一九日付けで「施設の使用等に関する便宜供与についての取扱について」をそれぞれ発し、これらに基づいて、国鉄を批判したビラの内容を理由に掲示板の撤去を求めたり、一方的に掲示板を撤去した。
(8) 広域異動について
国鉄は、昭和六一年三月、今後余剰人員対策のため、北海道から東京・名古屋地区へ、九州から大阪地区への広域異動を行うと発表したが、右広域異動は、新会社であるJRグループ各社への採用の予約切符であり、国鉄の分割・民営化に賛成する組合の構成員が対象者の大部分を占めることになり、配転先ではそれらの者が正規の職を占めて、国労組合員が玉突きで弾き出されることになる。
(9) 企業人教育について
国鉄は、昭和六一年四月から、「企業人教育」を実施した。その対象者の選別は、希望を募った上、勤務成績により所属長が選定するとされているが、希望しなくても所属長が指名する場合があり、また、その内容は、企業忠誠心を植付けさせる洗脳教育であって、これを受けることは右JRグループ各社への指定券といわれていた。右対象者には、国労組合員の比率は少なく、不当な差別を行っているものである。
(10) 多能化教育について
国鉄は、昭和六一年七月二一日、多能化教育を職員に対して実施すると表明し、実施されたため、機関士を主たる構成員とする動労組合員が国労組合員の多い駅や保線区に配置され、国労組合員が本務から排除されることもあった。
(11) 動労に対する損害賠償訴訟の取下げについて
国鉄は、昭和五〇年秋に国労及び動労などが公共企業体等労働関係法(以下、公労法という。)等において禁止されていたストライキ権を付与することを求めて行ったストライキに関し、国労及び動労を被告として提訴していた総額二〇二億円の損害賠償訴訟のうち、動労に対する訴訟を昭和六一年九月に取下げ、国労に対する差別を行った。
(12) 国労組合員に対する脱退工作について
国鉄は、全国各地で国労脱退工作を行い、その結果、極く短期間のうちに国労から大量の組合員が脱退し、組織率が昭和六一年五月の58.3パーセントから昭和六二年三月には27.9パーセントまで急激かつ大幅に低下した。
(13) 国労組合員に対する大量の懲戒処分について
国労は、昭和五七年ころから、国鉄の分割・民営化に反対して各種の闘争を行ったが、国鉄は、国労組合員に対し、昭和五九年八月四日に、同年五月一三日のスト及び同年七月六、七日の順法闘争に参加したことを理由に二六〇〇名の処分を、同年九月八日に、右順法闘争に参加したことを理由に一六八〇名の処分を、同年一一月二四日に、同年八月一〇日のストに参加したことを理由に停職一六名を含む約二万三三〇〇名の処分を、昭和六〇年一〇月五日に、同年三月一九日及び同年八月五日のストに参加したこと等を理由に停職一四名を含む約六万四一三〇名の処分を、同年九月一一日に、ワッペン着用闘争を行ったこと等を理由に約五万九二〇〇名の処分を、昭和六一年五月三〇日に、同様の理由で約二万九〇〇〇名の処分をそれぞれ通告した。
(14) 国鉄幹部の不当労働行為発言について
葛西国鉄本社職員局次長が昭和六一年四月二二日及び五月二一日に、杉浦国鉄総裁が同年七月、八月、一〇月二一日に、宮林国鉄東京建築工事局次長が同年八月一一日に、国労に対する不当労働行為的発言をそれぞれ行った。
(15) 新会社発足後の国労差別について
新会社発足後も、JRグループ各社は、発足の際の採用等で国労組合員に対する差別を行っている。
(16) まとめ
以上のとおり、国鉄は、幹部発言からも明瞭にうかがい知れるとおり国労を嫌悪し、種々の手段を弄して国労の弱体化を企図し、実際にこうした諸施策により短期間のうちに国労の組織率は急激に低下し、また、人材活用センターへの担務指定は、まさにこうした国鉄の国労嫌悪・敵視、国労組合員の本務からの排除、国労組合員の差別、国労の弱体化、組合活動の抑圧を企図し実行するものにほかならなかった。
(二) 国労組合員の集中的配属について
人材活用センターは、昭和六一年現在で一四八か所に設置され、約一万八五〇〇名の職員が配属されたが、このうち、国労組合員が一万四九六〇人で八一パーセント(国労の組織率・約四八パーセント)を占めており、動労組合員が七パーセント、鉄労組合員が六パーセントであることからすると、国労組合員が圧倒的に多い。このように、人材活用センターへの配属は、国労に所属する組織員に偏ったものであった。
(三) 職員管理調書の問題点について
人材活用センターへの配置の選別基準は、勤務成績などを判断要素としているが、その評価は、昭和五八年から三年間を対象期間とする職員管理調書を中心的な要素とし、右調書の特記事項として労働処分についても言及されていることから、当然組合活動により処分を受ければ低い評価を受けるものであり、右期間については、特に国労が国鉄と対立して他の組合と比較して組合活動を行って処分が多発した時期であり、国労組合員が低い評価を受けて人材活用センターへの配置がなされるように仕向けられている。
(四) 原告らに対する人材活用センターへの配属の不当労働行為性について
(1) 原告らは、いずれも本来業務に熟知し、経験も豊富で、資格のある者もあり、技術に優れ、勤労意欲の点でも劣っていない。
(2) 原告らの所属する分会は、国労の中でも団結が固く、昭和四六年のマル生攻撃に対する抵抗、昭和四七年ころからのじん肺疾病についての活動、昭和五二年の大阪保線所での死亡事故を契機とした安全対策の労働協約化など活発な組合活動をしていたものであり、国鉄は分会を著しく嫌悪している。
(3) 国鉄は、人材活用センターの設置前に企業人教育の受講者を中心に結成されたインフォーマルグループを中心に「なにわ会」の結成・活動に協力し、「なにわ会」の場を活用して国労脱退工作を実行した。
(4) 本件担務指定がなされた六一名のうち六〇名が分会員であり、当時、役員は二二名いたが、うち一七名が人材活用センターへ配属された。また、元役員歴のある分会員もその大部分が人材活用センターに配属された。大阪保線所で組合に所属する労働者三一四名のうち国労分会員が三〇一名で、その割合は、95.9パーセントであり、人材活用センターへの配属者の中で分会員比率は98.4パーセントであって、分会員の中での人材活用センターへの配属割合は19.7パーセントである。
国労脱退工作や人材活用センターへの配属によって、人材活用センター発令前には三〇一名であった分会員が人材活用センター発令後は三三名が脱退し、二六八名になった。
(5) 新会社発足後分会員は、本来業務以外の営業部又は運輸部の業務に従事するとの配属差別を受け、また、配属差別を受けた二二名のうち、二一名は人材活用センターに配属されていたものである。
(五) 以上のとおり、本件担務指定は、原告らの組合活動を嫌悪した国鉄が、国労の弱体化と、JRグループ各社からの排除を狙って原告らを差別して不利益取扱いをなし、支配介入をした不当労働行為にほかならないから、違法かつ無効である。
3 本件担務指定が人事権の濫用による違法なものであることについて
(一) 国鉄が人材活用センターを設置する根拠としたのは、「余剰人員」の存在であるが、右余剰人員は、政策的かつ極めて意図的、人為的に作り出されたものであり、決して本来「余剰人員」が存在したわけではない。原告らは、それぞれ保線に必要な技術を持ち、各職場で重要な業務に従事していたものであって、余剰人員ではなかった。
したがって、「余剰人員」対策のためと称して設置された人材活用センターはそれ自体不要のものであった。
(二) 被告は、財政赤字を解決するには人件費の削減、要員削減が重要であるとするが、これは虚構の主張である。国鉄の財政危機の真の要因は、利子・原価償却などの資本関係費が異常に増大したことによるもので、採算を無視した借入金による山陽・東北新幹線などの設備投資の実施、政府の道路偏重の交通政策、公共負担のしわよせ、公共的使命を帯びながら政府などによる公的助成金が少ないことなどの構造的要因に基づくものである。国鉄は、昭和三九年までは、黒字経営を続けてきたのに、その後高度経済成長に対応して輸送力増強のための膨大な設備投資が開始され、その後の赤字経営を余儀無くされ、借入金とそれに伴う利子の支払がふくらんでいった。それにもかかわらず、国鉄の公共的性格から国がその費用を負担すべきであるのにこれを怠ったため国鉄の財政的破綻を招いたのである。本来、国が穴埋めすべき赤字分を、誤った人員削減策で補填したものである。この人員削減策により、労働条件の悪化、安全性の無視といった問題が生じている。本件担務指定は、この誤った人員削減論を前提にした必要性のないものである。
(三) 本件担務指定は、配属期間の終期が特定されておらず、ローテーション方式で十分であるのにこれを採らず、特定の職員のみ固定的に配置するものであること、担当させられる業務は、草むしり、掃除、クラフト作り、自転車置き場の整理、用地管理業務といった今までの本来業務とは関係のない意味のない労働を無理やり作ったものが多く、不合理なものであるばかりか、人材活用センターに配属された者は本務から切り離されて生きがいを奪われ、無意味な労働を押しつけられたのである。大阪保線所における人材活用センターによって押しつけられた職務は、枕木、用地杭、線路防御柵、バラスト止板、防音壁などの調査など、本務と無関係で、かつ、すでに以前調査済みで調査の必要性のないものであり、現に調査結果書類は未だ検討されずに放置されている。
(四) 本件担務指定は、対象者の選定につき、合理的選別基準のない恣意的なものであり、原告らの所属する国労潰しを狙ったものである。
(五) 以上のとおり、本件担務指定は、合理的必要性がなく、恣意的な措置であるから、人事権の濫用であって無効である。
(原告らの追加請求原因その一(以下、右請求原因による請求を第一新請求という。))
1 第一次原告らは、新幹線総局長名で大阪保線所大阪支所鳥飼分所在勤を免じられた昭和六一年七月一〇日から大阪保線所長名で人材活用センターに本件担務指定された前日の同月二〇日までの間、同所長が右原告ら三名に対し仕事を指示せず、右原告らは、会議室で無為に過ごすこととなり、疎外感を味わうと共に、労働を通して自己実現を図る機会を奪われた。右の行為は、国鉄による不法行為である(以下、本件担務指定前の不法行為という。)。
2 国鉄は、昭和六二年三月一〇日、人材活用センターを廃止したが、原告らを本件担務指定前の職場に戻さず、同月三一日まで営業部などの従来従事していなかった職種への配属をした。これは、国労組合員である原告らへの差別的取扱であり、右の行為により原告らは、不安と疎外感を与えられたが、右の行為は、不法行為である(以下、人材活用センター廃止後の不法行為という。)。
3(一) 本件担務指定前の不法行為は、原告らが当初から主張する昭和六一年七月一〇日付けの担務指定に基づくものである。
(二) 本件担務指定前の不法行為及び人材活用センター廃止後の不法行為は、原告らの当初からの請求の訴訟物の範囲に含まれている。
そして、右の各行為の存在及び右行為に基づく損害については、既に本件審理の過程で主張・立証されているところであるから、時機に遅れた攻撃・防御方法でもないし、訴訟手続を遅延させるものでもない。
4 原告らの追加請求原因その一による損害賠償請求権に対する被告の時効消滅の主張は争う。
原告らが損害及び加害者を知ったのは、平成五年一一月一九日であるから、三年の消滅時効は完成していない。
仮に、右消滅時効が完成しているとしても、被告が右抗弁を提出することは信義則に照らし許されない。
(原告らの追加請求原因その二(以下、右請求原因による請求を第二新請求という。))
第一次原告らに対し昭和六一年七月一〇日から同月二〇日まで何らの業務をさせなかった国鉄の行為(以下、本件担務指定前の債務不履行という。)、本件担務指定により原告らを人材活用センター担当に指定して前記業務に従事させた国鉄の行為(以下、本件担務指定による債務不履行という。)及び原告らに対し昭和六二年三月一〇日から同月三一日まで本件担務指定前の業務に戻さなかった国鉄の行為(以下、人材活用センター廃止後の債務不履行という。)は、いずれも労働契約上ないし信義則上の適正配置義務に違反する債務不履行に該当する。
三 被告の主張
(原告らの当初の請求原因について)
1 本件担務指定が手続上違法であるとの主張について
本件担務指定は、配置転換ではなく就業規則に基づき所属長ないし現場長が命じ得るもので、個々の職員の同意を要しない。本件担務指定を行うに当たって原告ら所属の国労との団体交渉を経ていないが、右担務指定は、団体交渉の対象ではなく不要である。
2 本件担務指定が不当労働行為であるとの主張について
(一) 国鉄が国労の弱体化を意図し、国労の差別的取扱いなどの不当労働行為を行った事実はない。
(二) 国鉄は、昭和五九年七月、余剰人員調整策として、退職前提あるいは復職前提の休職、派遣制度などを提案し、国労との間で同六〇年四月までに妥結したが、国労は「退めない・休まない・出向かない」の「三ない運動」を展開してこれを妨害した。国鉄は、国労に対し、雇用安定協約の再締結をこのままではできない旨通告した。国労は、「三ない運動」の中止を表明したが、下部機関において、その方針が十分実行されていなかったため、雇用安定協約は再締結されなかったものである。
(三) 政府は、昭和六〇年一二月、国鉄の余剰人員雇用対策として、国鉄職員を公的部門で三万人採用することを目標として全力で取り組むことを明らかにした。そこで、国鉄は、公的部門への転出希望などの把握を主目的として進路希望アンケートを実施したものである。
(四) 労使共同宣言は、雇用の場の確保が最重要課題であるとの共通認識に立ち、国鉄改革が成就されるまで、労使は信頼関係を基盤に、諸法規を遵守し、サービスとモラルの向上に務める、余剰人員対策を積極的に推進するとの内容を労使の共通認識として確認したもので、労働基本権を制限するものではない。これは、鉄労・動労・全施労などの労働組合との間に昭和六一年一月以降調印され、国鉄は、国労にも参加を呼び掛けたが、拒否されたものである。
(五) 昭和六一年に実施された広域異動は、余剰人員規模の地域的偏りを調整し、余剰人員対策を適正・公正に行うため、北海道・九州地区の職員を対象に、東京・大阪などの地区への転勤を大規模に実施することを内容とするものであり、これに応じることと、JRグループ各社への採用とは性格の異なるものである。
(六) 企業人教育は、企業の存立基盤とその中の自らの位置づけ・役割を自覚し、企業人としてふさわしい考え方と行動力を身につけさせるため約七万人を対象として実施したものであり、企業忠誠心を植付けさせるための洗脳教育ではない。
(七) 昭和五七年一一月のダイヤ改正に関し、国鉄が鉄労・動労・全施労と「五七・一一ダイヤ改正の実施に伴う労働条件に関する協定」を先行妥結し、国労との妥結が遅れたが、これは、国労が、国鉄本社前での座り込みや集会を行い、集団交渉を要求し、国鉄が拒否すると、順法闘争に突入し、その間事態打開のための努力が続けられ、ようやく団体交渉を再開して妥結に至った経過があるためである。
(八) 昭和五七年当時の国鉄の職場規律の乱れは著しいものがあり、このために生産性の低下をもたらし、国鉄経営の悪化の原因となっていた。昭和五七年三月から昭和六〇年一〇月にかけて八次にわたり全国の現業機関において職場総点検を実施したことにより、職場規律の改善は進んだ。さらに、職員個々の勤務実態を統一的に把握すべく、これまでの地方機関毎の職員管理台帳の作成に加えて職員管理調書を作成し、職員の意識・意欲を含めた現状把握を行い、あわせて職場規律の総点検の集大成をすることにしたのである。職員管理調書の評価項目は、勤務成績などを評価するに当たり妥当なものである。すなわち、組合活動そのものを評価の対象とするものではなく、勤務時間中の組合活動、ワッペン着用行為など違法な活動をマイナス評価の対象とするのであって当然のことである。
(九) 人材活用センターは、余剰人員を一括して集中管理し、これを安定的、継続的に運用し、増収、経費削減等の業務に従事させてその有効活用を図る趣旨で設置されたものであり、本件担務指定とJRグループ各社への採用ないしは被告生産事業団への振り分けとは関係がない。現に、本州、四国のJRグループ各社においては、ほとんどの職員がほぼ希望どおりに採用されているし、前記のとおり原告らについても昭和六二年三月に退職した原告上野、同村井、同鎌田を除いて全員JRグループ各社に採用された。さらに、人材活用センターは、各職場に設置されているから組合活動の支障も生じないものであり、人材活用センターの設置が国労敵視政策の一貫であるとの主張は根拠がない。
(一〇) 昭和六一年九月一日現在で、国労大阪地方本部所属組合員のうち、人材活用センターに配置された職員の数は八四一名で、そのうち国労組合員は六六一名であり、その割合は約七八パーセントと、国労組合員の組織比率に比べて高いが、これは、たまたま国労組合員の数が多かったのに過ぎず、国労に所属していたことを理由に差別したものではない。
3 本件担務指定が人事権の濫用であるとの主張について
(一) 国鉄の財政危機の原因は、高度経済成長により、マイカー・トラック・航空機など他の交通機関が急速に発展し、国鉄中心の輸送構造に大きく変化が生じたにもかかわらず、これに即応した経営の重点化や生産性の向上が立ち遅れたためである。国鉄は、昭和五〇年以降の輸送量の減少に対応して輸送の効率化、作業の近代化を進め、要員縮減を行って来た合理化努力のあらわれとして余剰人員が生じたものであり、余剰人員が作り出されたとの原告らの主張は理由がないし、これに対応する雇用安定策も施している。そして、人材活用センターの設置は、この余剰人員対策として行われたものであり、設置に必要性が認められる。大阪保線所においても、昭和六一年一一月現在、所要員が二七七名であるのに対し、現在員が三七八名となり、過員は一〇一名にものぼっており、余剰人員が現に生じているのである。
(二) 従来、余剰人員は、ほとんどの場合、短期のローテーションをもって運用していたが、これでは期間が短いためにどうしても腰掛け的になり、当該業務に専念して充実した仕事をするところまでいかず、また、直営売店やセールスなどではある程度の長期間従事しなければ実績を上げるところまでは至らないという問題点があった。右事情から、鉄道の本来業務には所要に見合う現在員を配置し、着実に業務が遂行できる体制をとるとともに、所要を上回る人員については、継続した安定的運用をして、増収、経費削減、教育による多様化を図るべく人材活用センターを設置したのである。
(三) 人材活用センターにおける業務のうち、車掌区における特別改札、旅客駅における案内、運転職場における外注業務の直営化などは明らかに本来業務そのものか、それに密接に関連する業務であって、今までの仕事と無関係なものとはいえないし、増収や経費削減に役立っている。駅などでのオレンジカードの販売、直営売店における販売活動、駐車場管理などは明らかに増収に著しい効果をあげており、その他の作業内容もいずれも国鉄の業務に関連した有用なもので、直接・間接的に増収・経費削減の効果を有するものであるから、結局人材活用センターにおける業務は十分意味のあるものである。
(四) 大阪保線所における業務は、新幹線の線路及び線路附帯施設などの保守・管理であり、具体的にはレール、枕木、バラストなどの保守・管理・交換などや、線路に附帯する構造物(橋梁や架道橋など)や附帯施設(バラスト止め、線路防護柵など)の維持・管理、線路に附帯する用地の保守などである。これに対し、人材活用センターにおける業務は、用地杭調査及び用地図との照合、用地柵調査、線路防護柵調査、架道橋調査、ロングレール保守台帳調査、バラスト止調査、枕木調査、防音壁調査、線路特別警備、パソコン教育である。そうすると、人材活用センターにおける業務は、これらの本来業務を円滑に施行していくうえで基本的な調査ないし管理作業というべきで、本来業務と密接な関連がある。しかも、人材活用センターにおける作業の成果は、その後JR東海において有効に利用されている。
(五) 人材活用センター配置の選定基準については、通常の人事異動と同様、日常の勤務成績などを総合的に判断し、所属長がその権限と責任において適材適所の観点から選定したものである。すなわち、効率的な要員体制をとるべき諸施策が進められている状況下において、資質・能力に優れ勤務成績の優秀な者を鉄道の本来業務に従事させることは、公平ないし企業秩序維持の要請から当然である。人材活用センターへは、鉄道の本来業務に就く以外の者を直営店業務や、多能化のための教育など、活用の内容に応じて配置している。したがって、国労組合員をことさら選別して人材活用センターに配属している事実はない。
(六) 以上のとおり、人材活用センターの設置には合理性があり、配属の選定も適正に行われているから、人事権の濫用はない。
(原告らの追加請求原因その一について)
1 原告らの当初の請求(旧請求)と追加された右請求原因に基づく請求(第一新請求)とは、別個の訴訟物であり、訴えの追加的変更に当たるというべきであるところ、両者には請求の基礎の同一性がない。仮に、同一性があるとしても、現段階における訴えの変更は、著しく訴訟手続を遅滞させる。
2 被告は、平成五年一一月二四日の口頭弁論期日において、第一新請求につき、不法行為についての三年の消滅時効を援用する。
(原告らの追加請求原因その二について)
1 原告らの右請求原因の追加は、被告が第一新請求に対し、消滅時効の抗弁を主張したことに対する対策としてなされたものであり、かつ、訴訟の終結段階においてなされたものであって、訴訟法上の信義則に違反して許されない。
2 また、第二新請求は、訴えの追加的変更であるところ、本件旧請求と第二新請求との間には、請求の基礎の同一性がなく、仮に、これがあるとしても、現段階における訴えの変更は、著しく訴訟手続を遅滞させるものである。また、仮に、訴えの変更に当たらないとしても、時機に遅れた攻撃防御方法の提出であって、故意過失により遅れたものであるから許されない。
3 さらに、右訴えの変更が許されるとしても、国鉄は、原告らに対し、人事権に基づいた配置を行えるのであり、労働契約上適正配置義務なるものを負っておらず、これを前提にした債務不履行責任の主張は失当である。
四 主たる争点
(当初の請求(旧請求)について)
1 本件担務指定が不法行為を構成するかどうか。
(一) 本件担務指定は、手続上違法であるか。
(二) 本件担務指定は、不当労働行為であるか。
(三) 本件担務指定は、人事権を濫用して行われたものか。
(第一及び第二新請求について)
2 原告らの第一及び第二新請求の追加は適法か。
3 適法であるとして、その請求の当否。
(全請求について)
損害の発生の有無(被侵害利益の存在)が争点である。
第三 証拠
本件記録中の証拠に関する目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 判断
一 まず、原告らの当初の請求(旧請求)につき判断するに当たり、本件担務指定をめくる事実関係について検討する。
前記争いのない事実等に証拠(甲一ないし三、一五、一九ないし二二、二六、二九、三〇、三一の1・2、三二、三三、三八ないし四五、四六の1ないし3、五〇、五一、五四ないし五六、六〇、六二、六七、六八の1・2、六九、一〇八、一〇九の1・2、一一六、一一九、一四三の1ないし3、一四四、一四五、一五三ないし一七五、乙一ないし一一、一二の1・2、一三ないし一五、一六の1・2、一七ないし一九、二〇の1・2、二一、二二、二三の1・2、二四ないし二八、二九の1ないし4、三〇の1・2、三一の1ないし6、三二、三三、三九、四〇、四一の1ないし16、四二ないし四七、五二、五三、五四の1・2、五五ないし六三、六四の1ないし3、六五の1ないし5、六九、七一、七三ないし七八、八一の1・2、証人矢嶋信廣、同来島達夫、同片山好郎、原告森山康弘、同前田博之、同上田孝二及び弁論の全趣旨)を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 人材活用センター設置に至る経緯
(一) 国鉄の財政状況は、昭和三九年までは黒字経営を続けたきたが、その後赤字経営に陥り、以降悪化の一途を辿った。昭和六〇年度における実質的赤字は、単年度だけで一兆八四七八億円にものぼり、同年度末における繰越欠損金が一四兆一二一二億円、長期負債残高が二三兆五六一〇億円の巨額に達した。その原因として、まず、昭和三〇年代以降の高度経済成長に伴い、産業構造の変化、国民所得の向上が生じ、自家用車、貨物自動車、航空機などの他の交通機関が急速に発展し、国鉄のシェアが低下したこと、また、昭和五〇年以降は輸送量も減少し、国鉄がこれに的確に対応した経営の合理化、生産性の向上が立ち遅れてできなかったことがあげられる。すなわち、国内旅客輸送における国鉄のシェアは、昭和三五年度に五一パーセントであったものが、昭和五九年度には二三パーセントにまで減少しており、国内貨物輸送では昭和三五年度に三九パーセントであったものが、昭和五五年度には五パーセントにまで激減している(乙二)。また、以上のような国鉄の地位の低下にもかかわらず、新幹線の建設などの設備投資が次々に行われ、その資金の大部分を借入金に依存し、公的助成が余り行われなかったことも経営悪化の一因となったとの指摘もある。
(二) 国鉄及び国は、右のような経営の悪化に対処するため、昭和四四年度以降において、第一次、第二次及び第三次の再建対策を講じたが、いずれも大きな成果を得ることができなかった。そして、国鉄は、昭和五四年に国鉄再建の基本構想を発表し、同年に閣議で「日本国有鉄道の再建について」が了承され、昭和五五年にはこれに基づき、赤字ローカル線の廃止と国鉄職員三五万人体制(当時約四二万人)の実現を骨子とする「日本国有鉄道経営再建促進特別措置法」が制定され、昭和五六年には国鉄総裁から運輸大臣に対して「経営改善計画」が提出され、承認された。
昭和五六年に発足した第二臨時行政調査会は、昭和五七年七月三〇日、国鉄事業を再生させるためには過去の延長線上の対症療法によるのでは不可能であり、国鉄の経営形態を抜本的に改革する必要があるとの見地に立つ第三次答申を政府に提出し、五年以内の国鉄の分割・民営化を基本方策とし、それまでの緊急措置として、職場規律を確立し、ヤミ協定や悪慣行の是正などの緊急一一項目をあげ、強力な実行推進体制を整備するため、国鉄再建監理委員会を設置することを提案した。
右答申に基づき、昭和五八年六月に「日本国有鉄道の経営に関する事業の再建の推進に関する臨時措置法」が制定され、同法に基づき国鉄再建監理委員会が発足した。右委員会は、六人の委員をもって構成され、その内訳は、委員長ほか一名が民間人、二名が国鉄の元常務理事、二名が労働組合(国労、鉄労)の元委員長である。右委員会は、昭和五八年のいわゆる第一次提言において、国鉄の人件費は、運輸収入の七一パーセントに達しており、国鉄職員の生産性は私鉄と比較して著しく低いことから、私鉄並の生産性を目指して現場の要員数を減らす必要があり、その実効性を上げるために配置転換の促進などを図るべきであると指摘し、昭和五九年の第二次緊急提言においても、同様の指摘をし、職員の多能的運用などの合理化措置により大幅な所要定員の縮減を行う必要があると指摘している。また、同委員会は、昭和六〇年七月二六日、国鉄の分割・民営化を基本とする最終答申を出し、その中で過剰な要員体制を改め、民営化後は要員を当初約二〇万人とすること、昭和六二年度の予測在籍職員約二七万六〇〇〇人に対し、新事業体の適正要員規模は約一八万三〇〇〇人であるので余剰人員は約九万三〇〇〇人になることを指摘している(乙一)。
また、昭和五九年には、行政管理庁は、国鉄が充分な過員活用策を実施していないとし、余剰人員を一括・集中して管理し、これを安定的、継続的に運用し、増収及び経費節減などの業務に従事させてその有効活用を図るべきであると指摘している(乙七)。
(三) 国鉄は、国鉄再建監理委員会の指摘等を受けて、昭和五九年のダイヤ改正にに伴う貨物の大幅な合理化を始めとして経営効率の改善・合理化に取り組み、また、昭和五七年度をピークにして退職者が減少し、これらに伴い余剰人員が生じ、拡大してきた。国鉄の昭和六一年四月における人員は約二七万七〇〇〇人であるが、余剰人員は、昭和六一年度期首で約三万八〇〇〇人で、そのうち、他企業への派遣者約一万人余や休職者を除くと約二万一五〇〇人が全国の職場で余剰人員となっていた。そして、国鉄が当時進めていた合理化が完了する昭和六一年一一月時点での予想余剰人員は八万人を超えていた。
国鉄は、余剰人員対策として、売店の営業活動、乗車券などの販売、自動車の整備などの職種に配置したり、教育訓練などへの配置を行い、昭和五九年以降はいわゆる余剰人員調整三対策として、派遣、退職前提休職、復職前提休職などに関する措置を実施し、閣議決定を経て政府機関等の公的部門への転出を進め、昭和六一年には日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度に緊急に講ずべき特別措置に関する法律に基づいて特別給付金の支給を受けて二万人の目処の職員の退職募集を行ってきたが、各職場に広汎に生じた余剰人員を活用しきれず、いわゆるブラ日勤と称し、公式には待命日勤といわれる、職場において管理者らの業務指示待ちの状態にある者が多数生じた。しかも、余剰人員は、急増する事態となり、このまま放置すると職場秩序に弛緩、経営効率の悪化を招くことにもなりかねない事態となった。従来、国鉄は、余剰人員を鉄道の本来業務と余剰人員対策との間で、短期のローテーションをもって運用してきたが、期間が短いために腰掛け的になって、当該業務に専念して充実した仕事ができないし、売店やセールスではある程度長期間従事しないと実績をあげられないものもあった。
そこで、行政管理庁の前記指摘を踏まえ、鉄道の本来業務には、所要に見合う人員を配置し、所要を上回る人員については、これまで各地方機関でそれぞれ行っていた運用方式を統一的に整理し、人材活用センターとの統一的呼称のもとで集中的に配置し、今後の事業の活性化に備えて新しい事業分野の展開に努めたり、職員の多能化を図って、継続した安定的運用を行うことを意図して人材活用センターを設置することとなった(乙九)。
(四) 国鉄は、右の決定を受けて昭和六一年六月二四日、国労に対し、人材活用センター設置の趣旨、内容等を説明して理解を求め、国労との間で交渉を続けたが、国労は、労使間の合意が得られるまで人材活用センターの設置を留保することを求めるなど、容易に理解を示すところとはならず、同年七月五日、右交渉を打ち切った。これに対し、国労は、公労委に調停を申し立て(乙一一)、同年八月二一日、同委員会から「雇用問題の重要性についての共通認識のもと、人材活用センターへの職員の配置は余剰人員の特定化を目的とするものでないことをふまえ、調停案一五二号(昭和五九年七月二四日付)により対処すること」との調停案が提示された(乙一二の1)。なお、調停案一五二号(乙一二の2)の内容は、「いわゆる過員にかかわる要員運用策の実施に伴い労働条件に変更が生ずる場合には、労使は、中央および地方の対応機関において、具体的に問題を提起し、団体交渉などにより、その事案の早期解決に努めること」というものである。国鉄は、右調停案は「要員運用策の実施」自体について団体交渉の対象とすることを求めていないから、国鉄の見解が是認されたと理解し、国労から具体的労働条件についての申入れがないため、それ以上の団体交渉を実施しなかった。
2 人材活用センターへの職員の配属について
(一) 国鉄の就業規則(乙一〇)によると、人事上の異動に関し、同規則一八条が、職員の人事上の異動(転勤、転職、昇職、降職、昇格、昇給、降給、休職、復職、派遣、休業、復業、退職及び免職)については、所属長又はその委任を受けた者が行う旨、同一九条が、業務上必要である場合は、職員に人事上の異動を命じ、職員は、正当な理由なくして人事上の異動を拒むことはできない旨、同二〇条一項が、所属長は、人事上の異動のうち職員の転勤、転職、降職及び免職(懲戒免職は除く。)を行う場合には、文書をもって通知する旨、同条二項が、職員は、前項の通知の内容について、苦情を有するときは、その解決を簡易苦情処理会議に請求することができる旨を規定し、職制について、同規則二四条が、現場機関等の各職の責任及び指揮命令系統を確立し、業務の円滑かつ能率的運営を図ることを目的として職制を定める旨、同二五条が、職制の内容について、各職の職名、主な職務内容及び指揮命令系統をいい、現業機関等における職制等は、就業規則の別表で詳細に定める旨(一、二項)、職員は、職制の定めるところに従い、職務を遂行しなければならない旨(三項)、そして、同二六条が、所属長は、職員に対し、その所属する現業機関等に関する職制に定める職のうち、その者が従事する職の発令を行い(一項)、現業機関の長は、必要に応じて担務を指定することができる(二項)旨を規定している。また、同規則二七条、二八条は、現業機関等の職員を、職制に定める主な職務内容に明示していない業務に、また、一時的に本来業務でない他の職務に従事させることができる旨も規定している。
以上のように職員は、所属長から職制に基づいて職名の発令を受けるが、その職名の中でも、具体的職務を遂行する上で、特に具体的職務を指定されることがあり、この担当業務の指定が「担務指定」と呼称されている。そして、国鉄において行われた人材活用センターへの職員の配属は、就業規則二六条二項に基づいて、現業機関等の長によって行われる担務指定をもって行われた。
なお、原告吉田、同杉江、同来住、同吉川以外の原告らについては、所属長である新幹線総局長から在勤を命じないし在勤を免じる旨の発令が人材活用センターへの担務指定と同時になされている。これらは、明文で定められていないが、慣行的に同一現業機関(本件では大阪保線所)内における執務場所を変更する際に用いられるものであり、就業規則一八条、二〇条にいう転勤が所属(本件では新幹線総局)外にわたる勤務場所の異動をいうのに対し、担務指定は所属内における勤務場所の異動をいうものである。そして、在勤発令については、右就業規則の規程から明らかなように、事前通知は不要であるが、職員に有利に図るため、慣行的に、所属長が事前通知を発し、簡易苦情処理手続に乗せていた。
(二) 人材活用センターへの職員の配属は、通常の人事異動と同様に日常の勤務成績などを総合的に判断し、所属長がその権限と責任において適材・適所の観点から選定したもので、資質・能力に優れ、勤務成績優秀者と判断された者を鉄道の本来業務に就かせた。
3 人材活用センターにおける業務について
人材活用センターにおいて担当した業務は、①増収施策として、団体旅行などの募集、記念乗車券の臨時販売、街頭宣伝、ポスター、パンフレットなどの作成、貨車解体・改装、駐車場などの管理、直営売店、車内販売、文鎮作り、灰皿磨きなど直営売店での販売品の製作、②経費節減策として、清掃や印刷などの外注業務の直営化、不用建造物等撤去、コンテナ新装、こ線橋、天井クレーン等の製作、自動車の整備、除雪作業、その他の雑作業、③教育として、資格取得教育、OA教育、他系統への多能化教育、④その他として、用地管理業務、クリーン作戦など様々なものがある。これらの業務は、本来業務に含まれるもの、あるいはそれに密接に関連するものもあれば、人材活用センターに配置された職員にとって、従来従事してきた業務と直接関連しないものもあったが、右のような業務を人材活用センターの業務とした目的には、厳しい財政状況を幾分でも緩和するための増収施策あるいは経費節減策、さらには職員の教育等として考えられたものであって、右業務中には、増収及び経費節減策並びに教育等として有用なものもあった。
4 大阪保線所における余剰人員の存在について
大阪保線所(支所を含む)における余剰人員は、昭和六一年四月段階では所要員が三四六名に対し、現在員が三六四名で一八名が過員、同年八月段階では所要員が三四六名に対し、現在員が三七〇名で二四名が過員、同年一一月段階では、所要員二七七名に対し、現在員が三七八名で一〇一名が過員となっており、余剰人員が急速に増大している。これは、新幹線総局においても合理化が進められ、昭和六一年六月には、国労に対して、大阪保線所の要員縮減を含む合理化案が提案され、団体交渉を経て、要員が縮減されていることなどの経緯によるものである。
5 大阪保線所における人材活用センターの設置及び同センターにおける業務について
(一) 大阪保線所における人材活用センターは、当初、昭和六一年七月段階では大阪支所に一か所設けられ、第一次原告らが配置され、同年一一月には、大阪支所、京都、神戸の各支所に一か所ずつ設けられ、右三支所の人材活用センターに原告らが配置された。新幹線総局長及び大阪保線所長は、原告らを右人材活用センターに配置するに当たっては、職員管理調書、職員各人の現場での勤務状況を記載した職員管理台帳等に基づき、勤務成績を把握し適材適所の観点から決定した。
(二) 原告らが人材活用センターにおいて命じられた業務は、別表(三)記載のとおり、用地杭調査、用地柵調査、線路防護柵調査、架道橋調査、ロングレール調査、バラスト止め調査、枕木調査、防音壁調査、線路特別警備及びパソコン教育である。これらの業務は、大阪保線所の本来の業務であるか、密接に関連した業務である。
右各業務の内容等を見てみると、次のとおりである。
(1) 用地杭調査
新幹線の線路用地及び車両基地等の用地を管理するために隣地との境界に設置された用地杭が正しく建植されているか、欠損・脱落がないか、用地が侵害されていないか等を用地図(乙二三の1・2参照)と照合しながら調査するとともに、雑草等を除去して用地杭の所在を目立たせる作業をし、現存する用地杭の頭部に赤で塗色して以後の確認を容易にする措置をした。右調査によって、用地杭の欠損状況が判明し、昭和六二年度に予算措置を講じ、順次建植された。
(2) 用地柵(用地進入防止柵)調査
新幹線の線路用地等を明示するために同用地等と隣地との境界に設置された用地柵について、破損箇所、台帳と変更になっている箇所などを現地と台帳を照合しながら、形式、延長等を確認して用地柵台帳を整備した。
(3) 線路防護柵調査
新幹線用地内に進入できないように設置された防護柵であり、これが取替え、修繕されている箇所が多くあるのに、その管理台帳が整理されていないため、現地と台帳とを照合して整備した。
(4) 架道橋調査
新幹線の線路と道路との立体交差箇所に設けられた橋梁について、建設時から道路面が舗装されたこと等によって高くなった箇所や道路状況が変更になった箇所等において、新幹線の桁と道路面との空間を測定する等した。
(5) ロングレール調査
新幹線に使用されているロングレールの保守台帳と現地敷設ロングレールの実情との照合を行い、保守台帳の修正と電算機入力データの補正を行うとともに、現地レールに番号を記入した。
(6) バラスト止め調査
随時施行されていたバラスト止めについて、管理台帳が未整備であったので、実態を調査し管理台帳の作成を行った。
(7) 枕木調査
枕木の種別毎の敷設延長が保守台帳に整備されていなかったので、その整備を行った。
(8) 防音壁調査
防音壁を施行してきたが、その位置、数量に不明な点があるため、構造、種別毎の数量の確認・調査をして管理台帳を整備した。
(9) 線路特別警備
当時、いわゆる過激派による新幹線線路整備に対する妨害を防止するため、昼間には自動車により門扉巡回を行い、夜間には確認車に添乗して線路警備を行った。
(10) パソコン教育
今後、国鉄における事務処理手続のOA化が進展していくことに対応していくため、技術力向上をはかって、助役等が講師となって指導を行った。
以上の業務によって台帳が整備されたことにより、その後の資料とできたし(なお、この点に関し、作成した台帳等を焼却したとの原告森山の供述は、同人の供述を総合検討した結果あるいは弁論の全趣旨に徴し、採用しない。)、現に用地杭については、その調査の結果に基づき整備されていることが推認できる。また、パソコン教育を受けた原告らのうち少なからずの者がその後業務遂行過程において有効に活用している。
6 国鉄労使及び人材活用センターをめぐる諸事情について
(一) 国鉄と国労との関係について
(1) 国鉄における組合及び国鉄と国労の関係
国鉄の労働組合としては、国労の他に、動労、鉄労、全施労、全動労、真国鉄労(真国労)があったが、その後、全施労、真国労等を統合して日本鉄道労働組合(日鉄労)が結成され、さらに、動労、鉄労、日鉄労は昭和六二年に鉄道総連を結成し、同年には国労脱退組合員により鉄産労が結成された。
国労は、これまで国鉄との間に次のとおり、長年の対立関係にあった。まず、国労は、昭和四四年、当時のいわゆる国鉄による合理化推進、生産性向上を目的としたいわゆるマル生運動に反対し、結局、国鉄は、マル生運動を中止した。また、国労などは、昭和五〇年、いわゆるスト権奪還のためにストライキを決行したのに対し、国鉄は、右ストライキによる損害賠償を求めて国労及び動労を相手に、二〇二億円の損害賠償訴訟を提起したが、昭和六一年に至り、動労に対する右訴訟を取り下げた。
(2) 職場規律総点検と国労
後記昭和五七年以降の職場総点検の実施について、国労は、一方的実施には反対したが、国鉄は、職場規律の是正のため、就業時間内の組合活動の禁止などの規制措置をとるようになった。
(3) 国鉄の民営・分割化の方針と国労
昭和五七年の第二臨時行政調査会の第三次答申で国鉄の民営・分割化の方針が打ち出されてから、国労は、終始この方針に反対すると共に、国鉄がその後に合理化政策を推進した際、国労は、この方策には、労働条件の悪化や要員の削減につながるとして反対した。
昭和五七年三月、国鉄分割・民営化に反対すべく、国労・動労・全施労・全動労の四組合は、共闘会議を発足させ、以後共同して活動した。ところが、昭和五七年一一月のダイヤ改正に対し、動労・全施労・全動労の三組合は、国鉄との間で「五七・一一ダイヤ改正の実施に伴う労働条件に関する協定」を一方的に締結してしまった。動労は、昭和六一年二月ころからは、国鉄分割・民営化容認の立場をとるようになり、また、鉄道総連、鉄産労は、前記のように国鉄分割・民営化の動きが始まってから結成され、これを容認する立場を採った。
(4) 現場協議協定の失効
昭和五七年七月、国鉄は、各組合との間に締結していた現場協議に関する協約について、改定案を提示し、動労らはこれを受け入れたが、国労及び全動労はこれに反対し、結局、同年一二月以降、両組合との間では右協定は失効した。
(5) 各種闘争に対する処分
国労は、前記のとおり昭和五七年ころから一貫して国鉄の分割・民営化に反対し、ストなどの闘争を行ってきたが、国鉄は、国労組合員に対し、昭和五九年八月四日に、同年五月一三日のストと同年七月六、七日の順法闘争に参加したことを理由に二六〇〇名の処分を、同年九月八日に、右順法闘争に参加したことを理由に一六八〇名の処分を、同年一一月二四日に、同年八月一〇日のストに参加したことを理由に約二万三三〇〇名の処分を、昭和六〇年一〇月五日に、同年三月一九日、同年八月五日のストに参加したことなどを理由に約六万四一三〇名の処分を、ワッペン着用闘争を行ったことを理由に、同年九月一一日に約五万九二〇〇名の処分を、昭和六一年五月三〇日に約二万九〇〇〇名の処分をそれぞれ通告した。
(6) 国鉄の雇用調整策提案と国労の態度及び雇用安定協約の非締結
国鉄は、昭和五九年六月に、前記退職制度の見直し、休職制度の拡充、派遣制度の拡充という三つを柱とした余剰人員対策としての雇用調整策を提案し、国労との間で昭和六〇年四月までに妥結したが、国労は、「退めない、休まない、行かない」といういわゆる三ない運動を展開し、そのため右雇用調整策は円滑に進まなかった。国鉄は、当時、余剰人員の雇用調整は国鉄再建にとって死活問題であるとの認識を抱いていたので、国労に対し、雇用調整策に対する右のような態度を取り続けるならば、昭和六〇年一一月三〇日に期限切れとなる雇用安定協約を再締結できない旨通告した。これに対し、国労本部は、昭和六〇年一一月に入り、右運動の中止を決定したが、下部組織には徹底せず、右運動中止の実行が十分になされなかった。そのため、国鉄は、雇用安定協約を再締結せず、国労との間では同年一二月一日から無協約となったが、動労・鉄労・全施労との間には同年一一月一三日に雇用安定協約を締結した。
(7) 職場掲示板等の使用制限
国鉄は、各地方機関の労務担当課長あてに、昭和六〇年七月一一日付けで「施設の使用等に関する便宜供与の見直しについて」を、昭和六一年二月一九日付けで「施設の使用等に関する便宜供与についての取扱いについて」を通知し、右通知に基づき国労の掲示板の撤去を求めたり、掲示板の撤去を行った。
(8) 労使共同宣言の提示と国労の拒否
国鉄は、昭和六一年一月、国労に対し、労使共同宣言を提示してその締結を求めたが、国労はこれを拒否した。
(9) 国鉄幹部の発言
国鉄本社葛西職員局次長は、昭和六一年四月、広域異動した人や企業人教育を受けた人は本人の希望が優先されるとの趣旨の、杉浦国鉄総裁は、同年七、八月の動労、鉄労、全施労の各大会において、国労や昔の路線の動労と手を組めば国鉄改革どころではないとして、これら組合の協力を求め、同年一〇月二一日、衆議院特別委員会において、労使共同宣言に反対である組合には信頼を持てない旨の発言をした。
(10) 国労の組織率の低下
国労は、いわゆるマル生闘争の際、全職員に対する組織比率を低下させ、その後約六割台を維持していたが、昭和六一年七月以降には月一万人前後の脱退者が生じ、同年度中に約一三万人の組合員の減少が生じ、同年五月には組織率は58.3パーセントであったのが、同年一〇月には五割を割り、昭和六二年三月には27.9パーセントとなるなど組織率を大きく低下させた。大阪保線所においても、人材活用センター発令前には三〇一名の国労組合員がいたが、発令後には三三名減少した。
(11) 分会の活動
分会は、昭和四六年のマル生運動に対する反対行動、昭和四七年ころからのじん肺疾病についての活動、昭和五二年の大阪保線所での死亡事故を契機とした安全対策の協約化などの活発な組合活動を行ってきている。
(二) 人材活用センターへの配属者の組合別構成について
人材活用センターへの配属者の組合別構成をみると、昭和六一年一一月現在で、約一万八五〇〇名の職員が配属されたうちで、国労が一万四九六〇人で八一パーセント、動労が一三七〇人で七パーセント、鉄労が一〇九〇人で六パーセント、全動労が四三〇人で二パーセント、その他が六六〇人で四パーセントの割合であり、当時の国労の組織率が四八パーセントであることからすると、国労組合員、なかでも役職者の比率が高くなっている。
昭和六一年九月時点で、国労大阪地方本部管内でみると、人材活用センターへ配属された職員は全体で八四一名、そのうち国労組合員は六六一名で約七八パーセントであり、国労大阪の組織比率が昭和六一年八月現在で49.4パーセントであることを考えると国労組合員の比率が高くなっている。
大阪保線所においても、昭和六一年一一月段階において、組合所属者三一四名中、国労組合員は三〇一名で、組織率は95.8パーセントであり、大阪保線所においては六二名が人材活用センターへ配属され、そのうち六一名が国労組合員であるから、その割合は98.3パーセントであり、国労組合員の比率がやや高くなっている。また、二二名の国労役員中一七名が配属されている。
(三) 原告らのJR各社への採用等について
国鉄事業が民営・分割化されたことにより、JR東海に採用された原告は一六名、JR西日本に採用された原告は六名である。原告鎌田は、いずれのJRグループ各社に採用されていない。国鉄において、昭和五八年四月以降停職六か月以上の懲戒処分を受けた者は、日本国有鉄道改革法によるJRグループ各社採用基準の「日本国有鉄道在職中の勤務の状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること」に該当しないとして同法所定の採用候補者名簿に登載されないところ、原告鎌田は、昭和五九年九月一四日停職一〇か月の懲戒処分を受けていることから、右名簿に登載されず、JRグループ各社に採用されなかった。
なお、大阪保線所においては、人材活用センターに配置された職員六二名のうち、JRグループ各社に採用された者は五一名である。
(四) 国鉄における職場規律の乱れについて
昭和五七年当時の国鉄の職場規律の乱れは著しいものがあったことから、国鉄は、これが生産性の低下をもたらし、国鉄経営の悪化の原因となっているものと考え、昭和五七年三月から昭和六〇年一〇月にかけて八次にわたり全国の現業機関において職場総点検を実施した。その結果、右現業機関において多数の様々な悪慣行、ヤミ休暇、ヤミ手当の存在が判明し、ヤミ手当等の廃止、職員に対する返還請求、ヤミ協定・悪慣行の破棄・廃止、勤務時間内入浴の禁止等の勤務の厳正化等の職場規律の改善が進められた。当時、このような悪慣行は、現場協議といわれる昭和四三年に生まれた労使の現場での意思疎通の場がいわゆるマル生運動以降に現場管理者のつるし上げの場となって、現場管理者がやむなくヤミ協定に応じた結果であった。また、当時は、職場の三悪ともいわれる突発休(ポカ休)が蔓延し、現場管理者は代替要員の確保に苦慮していた。
(五) 職員管理調書の作成について
右職場総点検により一定の成果はあげられたが、なお、職員の意識・意欲にかかわる問題は残されており、管理者の個人把握が不十分であったため、国鉄としては、職員個々の勤務実態を統一的に把握し、これまで地方機関ごとに作成していた職員管理台帳に加えて職員管理調書を作成し、職員の意識・意欲を含めた現状把握を行い、あわせて職場規律の総点検の集大成をすることを考えて、昭和五八年四月から昭和六一年三月を評価の対象期間として昭和六一年に職員管理調書を作成することとした。
職員管理調書の評価項目は、勤務成績などを評価する際の資料になっており、人材活用センターへの配属を決定する際の資料ともなっている。職員管理調書の調査項目は、基本事項、特記事項、評定事項の三つに区分されている。特記事項には労働処分の記載欄があり、評定事項の中には、9・協調性、11・職場の秩序維持、12・服装の乱れ、13・指示・命令、14・態度・言葉使い、15・勤務時間中の組合活動、16・勤務に対する自覚、責任感、18・信頼、20・現状認識の項目がある。特記事項の項目の中には、労働処分も含まれているが、組合活動そのものを評価の対象とするのではなく、勤務時間中の組合活動、ワッペン着用行為など違法と評価される活動をマイナス評価の対象とするものである。また、違法な組合活動を行えば、評定事項の中でマイナス評価を受けることがあり得る。
(六) 余剰人員の雇用対策等について
昭和六〇年一二月、政府は、国鉄の余剰人員の雇用対策について閣議決定を行い、雇用確保の場を国や公共団体に求め、政府は公的部門への国鉄職員の採用数の目標を三万人とし、達成に全力をあげて取り組む旨表明した。これに対応して、国鉄は、全職員に対し、公的部門への再就職の意向を把握する趣旨で、希望アンケート調査を行ったが、公的部門への希望の強さを把握して今後の転出事務に反映するため、他の部門への選択枝も合わせて設定し、進路全般についての希望を調査することとした。
(七) 広域異動について
昭和六一年三月、国鉄は、余剰人員の地域的偏りを調整し、余剰人員に対する具体的施策を全社的に適正・公正に行うため、北海道・九州地区の職員を対象に東京・大阪などの地区への転勤を大規模に実施することを内容とする広域異動を行った。なお、それにもかかわらず、北海道・九州のいわゆるJRグループ各社では、その後国鉄職員から多数の不採用者が生じることとなった。
(八) 企業人教育について
国鉄再建監理委員会による、第一次提言においても、職員はサービス事業に従事する職業人としての自覚を持つべきであり、国鉄は、右観点からの教育を充実させる必要がある旨、第二次提言においても、国鉄は、職員に対し、職業人としての自覚の保持・コスト意識の喚起を目指した教育を充実して、企業への帰属意識と職場改善意欲の高揚を図る必要がある旨の指摘がなされていた。
昭和六一年四月から、国鉄は、再建に当たりこれまでの親方日の丸意識を払拭し、国鉄の置かれた状況の認識と職責の自覚等の涵養のため、企業人としてふさわしい考え方と行動力を身につけさせるため、約七万人を対象として一回あたり三ないし四日間の企業人教育を実施した。
そして、企業人教育を受けた職員を中心にグループが形成された。
(九) 多能化教育について
国鉄は、昭和六一年七月二一日、鉄道事業の効率化を期する目的で職員に他の系統の職務を遂行する能力を身に付けさせるため、多能化教育を実施することを表明し、実施した。
二 主たる争点1(一)(本件担務指定は手続上違法か)について
前記及び右認定の事実によると、国鉄においては、現場機関等の各職の責任及び指揮命令系統を確立し、業務の円滑かつ能率的運営を図ることを目的として職制を定め、その職制の内容として、各職の職名、主な職務内容及び指揮命令系統を定め、職員は、職制の定めるところに従い、職務を遂行することとし、職制の現場機関における適用として、所属長が職員に対し、その所属する現業機関等に関する職制に定める職のうち、その者が従事する職の発令を行うとともに、現場機関の長が必要に応じて担務を指定することができることとされているところ、右担務指定の法的性質は、国鉄の労務指揮権に基づいた同一職名下においてなされる担当業務に関する業務命令であって、職員の勤務場所又は職種につき、将来にわたって変更をきたす人事異動である、いわゆる配置転換とは異なるものと解することができる。
本件担務指定は、就業規則二六条二項の規定に基づき、原告らの所属長である大阪保線所長による担務の指定としてなされたものであるところ、具体的にその内容をみてみると、原告らに対し発令されている職名は、別紙一覧表(一)職名欄記載のとおり重機保線係、保線副管理長、技術係、保線管理係であり、その職務内容は、同表業務内容欄記載のとおりの業務内容であるほか、重機保線係においては、「線路、線路附帯の建造物及び用地に関する作業」が、保線副管理長においては、「線路の検査、線路及び線路附帯の建造物及び用地の監視」が、技術係においては、「線路及び線路附帯の建造物の保守及び施工に関する技術業務」が、保線管理係においては、「線路の検査及びこれに関連する修繕作業並びに線路、線路附帯の建造物及び用地の監視、線路及び線路附帯の建造物の保守及び施工に関する技術業務」がそれぞれの職務内容として定められているのである。これに対し、原告らが配属された人材活用センターにおける業務内容は、別紙一覧表(三)業務内容欄記載の業務であるところ、これを原告らが発令されている職名の職務内容と対比すると、人材活用センターにおける業務の主たるものは線路ないし附帯設備の検査・調査や用地管理業務であって、このような業務は、原告らが発令されている職名の職務内容に含まれるか密接な関連性を有するものであり、原告らに対し、既に発令されている職名下において担当させるべき業務として指定することに何ら問題とされるべきところはなく、したがって、本件担務指定を行う際においては原告らの同意は不要であるというべきである。
また、原告らは、人材活用センターの設置及び本件担務指定に当たり、国鉄が国労との団体交渉を行わなかったことを違法であると主張するが、前記認定の事実によると、国鉄は、人材活用センター設置に当たり国労に説明しその理解を求めようとしたが、国労は、労使間の合意が得られるまで人材活用センターの設置を留保することを求めるなど、容易に理解を示すところとはならずに右交渉を打ち切り、その後公労委に申し立てられた調停において、同委員会から示された調停案につき、国鉄は、「要員運用策の実施」自体について団体交渉の対象とすることを求めていないとの理解の下に、国労から具体的労働条件についての申入れがないため、それ以上の団体交渉を実施しなかったとの事実を認めることができる。しかして、公労委の調停案からも明確でないごとく、人材活用センターの設置自体について、団体交渉の対象とし得るかは大いに疑義のあるところであるし、かつ、国労から具体的労働条件に関する団体交渉の申し出がなされなかった故に国鉄が団体交渉を行わなかったからといって、国鉄の右対応を違法視することはできないし、また、本件担務指定に当たり国労又は分会との間で団体交渉を手続上必要とすると解すべき資料は見当たらず、右組合との団体交渉を経ることが労使慣行とされていることを認めるに足りる証拠もない。
また、担務指定に伴い原告吉田、同杉江、同来住、同吉川以外の原告らになされた在勤の免除・命令は、同一現業機関内部での執務場所の変更であり、所属外にわたる勤務場所の異動である転勤についても就業規則上、職員の同意は不要とされているのであるからこれより狭い範囲での執務場所の変更にすぎない在勤の免除・命令については、右原告らの同意は不要であると解すべきである。そして、在勤の免除・命令について、組合との団体交渉は手続上必要とは解されず、組合との団体交渉を経ることが労使慣行とされていることを認めるに足りる証拠はない。
原告らは、本件担務指定が配置転換に当たるとして、それを前提に本件担務指定が違法である旨るる主張するが、本件担務指定及び在勤の免除・命令は、原告らの執務場所について、大阪保線所の同一支所内の支所・分所・管理室間の変更をもたらすものに過ぎず、前記のとおり職務内容に著しい変更がなされたわけでもなく、異動期間も第一次原告らは八か月弱、第二次原告らは四か月強であるに過ぎないのであるから、実質的にみても配置転換には当たらないというべきであり、原告らの主張は、右の点からも理由がない。
したがって、本件担務指定には、原告ら主張の手続上の違法を認めることはできない。
三 主たる争点1(二)(本件担務指定は不当労働行為か)について
原告らは、本件担務指定は原告らの組合活動を嫌悪した国鉄が国労の弱体化と、JRグループ各社からの排除を狙って原告らを差別して不利益取扱をなし、支配介入をした不当労働行為である旨主張するので検討する。
1 前記及び右認定の事実によると、国鉄においては、昭和四〇年度から赤字経営に転じ、悪化の一途を辿ったが、遂に昭和六〇年度における長期負債の残高が二三兆五六一〇億円に達し財政破綻状態に陥ったこと、国鉄は、右のような経営悪化の状態に対応するため、昭和五四年には国鉄再建基本構想を発表し、同年に閣議で「日本国有鉄道の再建について」が了承され、昭和五五年にはこれに基づき、赤字ローカル線の廃止と国鉄職員三五万人体制(当時約四二万人)の実現を骨子とする日本国有鉄道経営再建促進特別措置法が成立し、昭和五六年には国鉄総裁から運輸大臣に対して「経営改善計画」が提出・承認され、さらに、昭和五六年に発足した第二臨時行政調査会は、昭和五七年に第三次答申を政府に提出し、五年以内の国鉄の分割・民営化を基本方策とし、それまでの緊急措置として、職場規律を確立し、ヤミ協定や悪慣行の是正などの緊急一一項目をあげ、国鉄再建監理委員会の設置を提案したこと、右答申に基づき、昭和五八年に国鉄再建監理委員会が発足し、同委員会による昭和五八年及び同五九年のいわゆる第一次、第二次提言において、国鉄の人件費は、運輸収入の七一パーセントに達しており、国鉄職員の生産性は私鉄と比較して著しく低いことから、私鉄並の生産性を目指して現場の要員数を減らす必要があり、その実効性を上げるために配置転換の促進などを図るべきであること、職員の多能的運用などの合理化措置により大幅な所要定員の縮減を行う必要があることが指摘され、同委員会が昭和六〇年に出した最終答申においては、国鉄の分割・民営化を基本とすることとし、その中で過剰な要員体制を改め、民営化後は要員を当初約二〇万人とすること、昭和六二年度の予測在籍職員約二七万六〇〇〇人に対し、新事業体の適正要員規模は約一八万三〇〇〇人であるので余剰人員は約九万三〇〇〇人になることを指摘したこと、また、昭和五九年には、行政管理庁によって、国鉄が充分な過員活用策を実施しておらず、余剰人員を一括・集中して管理し、これを安定的、継続的に運用し、増収及び経費削減などの業務に従事させてその有効活用を図るべきであるとの指摘がなされたこと、国鉄は、右のような国鉄再建監理委員会等の指摘を受けて、経営効率の改善・合理化に取り組み、また、昭和五七年度をピークにして退職者が減少した結果、余剰人員が生じ、昭和六一年度期首で約三万八〇〇〇人、昭和六一年一一月時点での予想余剰人員は八万人を超えることとなったこと、国鉄は、余剰人員対策として、売店の営業活動、乗車券などの販売、自動車の整備などの職種への配置、教育訓練などへの配置をはじめとする右認定にかかる種々の余剰人員対策を講じたこと、しかし、このような対策を講じたにもかかわらず、各職場に広汎に生じた余剰人員を活用しきれず、職場において管理者らの業務指示待ちの、いわゆるブラ日勤の状態にある者が多数生じ、しかも、余剰人員は急増する事態となり、このまま放置すると職場秩序の弛緩、経営効率の悪化を招くことにもなりかねない事態となったこと、このような状況に対し、従来、国鉄で余剰人員対策として採ってきた、鉄道の本来業務と余剰人員対策との間で、短期のローテーションをもって運用してきた方法では、その期間が短いために当該業務に専念して充実した仕事ができないし、売店やセールスではある程度長期間従事しないと実績をあげられないとの考えと行政管理庁の前記指摘を踏まえ、鉄道の本来業務には、所要に見合う人員を配置し、所要を上回る人員については、これまで各地方機関でそれぞれ行っていた運用方式を統一的に整理し、人材活用センターとの統一的呼称のもとで集中的に配置し、今後の事業の活性化に備えて新しい事業分野の展開に努めたり、職員の多能化を図って、継続した安定的運用を行うことを意図して、人材活用センターを設置することとなり、国鉄は、昭和六一年六月二日付けで各地方機関に人材活用センターを設置することを指示する通達を出したこと、そして、大阪保線所においても、右通達に従い昭和六一年七月及び一一月に人材活用センターが設置され、大阪保線所における業務に含まれるか密接な関連性を有する業務等を行わせることとしたこと、大阪保線所(支所を含む)でも余剰人員が発生し、その人数は、昭和六一年四月段階では一八名、同年八月段階では二四名、同年一一月段階では一〇一名が過員となったこと、新幹線総局長及び大阪保線所長は、原告らを右人材活用センターに配置するに当たっては、職員管理調書、職員各人の現場での勤務状況を記載した職員管理台帳等に基づき、勤務成績を把握して決定したことを認めることができる。
右の事実と新幹線総局長及び大阪保線所長が原告らに本件担務指定を行うに当たって、原告らが国労組合員であることあるいは組合活動をしていること等を理由に人材活用センターへの配属を決定したこと及び国鉄が新幹線総局長及び大阪保線所長に右のような指示をしたことを認めるべき証拠がないことを総合勘案すると、国鉄は、国鉄再建監理委員会や行政管理庁の指摘を基に、国鉄再建に当たって種々対策を講じた結果生じた余剰人員対策の一環として人材活用センターの設置を決定し、大阪保線所に設置された人材活用センターへの原告ら職員の配属に当たっては、新幹線総局長及び大阪保線所長は、原告らの従来の勤務成績等を勘案し、適材適所の観点から原告らに対し、本件担務指定を行ったものであり、右人材活用センターの設置には相当の必要性、合理性があり、かつ、本件担務指定についても合理性があることを認めることができる。
2 以上のように認めることができるところ、原告ら主張のように、本件担務指定は、原告らの組合活動を嫌悪した国鉄が、国労の弱体化と、JRグループ各社からの排除を狙って原告らを差別して不利益扱いをなし、支配介入をするとの不労働行為意思を有してなしたものかどうかについて検討する。
(一) 本件で問題とすべきは、原告らに対する本件担務指定に当たり、これを行った新幹線総局長及び大阪保線所長が原告ら主張のような意図を有して行ったか、あるいは国鉄がそのような意図の下に新幹線総局長及び大阪保線所長に指示をして行わせたかである。そして、前記認定説示のとおり人材活用センター設置の経緯等に徴し、右設置には相当の必要性、合理性があること及び本件担務指定についても合理性が認められることからすると、原告ら主張のような意図が認められないと判断せざるを得ないところ、右認定を覆して、本件担務指定をもって原告ら主張のような不当労働行為であるとの認定に至るには、本件担務指定に向けての個別具体的な不当労働行為意思が新幹線総局長及び大阪保線所長又は国鉄に存在することを要するというべきである。そこで、原告ら主張の過去における国鉄の行為又は国鉄と国労との関係等から右のような意図を推認できるかについて検討を加える。
(1) 右認定の事実によると、国鉄と国労とは、長年にわたり労使対立の関係にあり、本件人材活用センターが設置された時期においては、国労は国鉄の分割・民営化に反対し、他の組合と比較しても国鉄と対立関係にあったこと、分会においてもこれまで活発な組合活動を行なってきたこと、国労の組織比率と比較して国労組合員の人材活用センターへの配置割合が高いこと、職員管理調書には労働処分の項目があることから、組合員が違法な組合活動により処分を受けていれば、勤務成績に影響するような結果を生じること、国労組合員は、前記のとおり違法な組合活動を行ったことを理由に、多くの処分を受けているから、これをもって勤務成績が芳しくないとの評価を受けるであろうことを推認でき、右の事実によると、国鉄が国労組合員を他の者に比し低位に評価し人材活用センターへの配属を決定する結果となったことは推認できなくはないが、右の事実をもって、本件担務指定を行うに当たって、新幹線総局長及び大阪保線所長又は国鉄が国労の弱体化とJRグループ各社からの排除を狙って原告らを差別して不利益扱い等を行うという不当労働行為意思が存在したとまで認めることはできない。
加えて、国鉄あるいは新幹線総局長及び大阪保線所長が具体的に原告ら個々との関係で、原告らの組合活動を嫌悪すべき状況があったかについては必ずしも明確でないこと、国労組合員の人材活用センターへの配置比率が比較的高いとの一事をもって、人材活用センターへの配属が国労つぶしを狙っていると直ちに断定できないこと、大阪保線所においては、人材活用センターへの配属割合は、国労組合員が高いということはできるが、それは右保線所における国労組合員の組織率が95.8パーセントと高いことによるとも考えられること、昭和六一年から同六二年にかけて国労組合員が大量に脱退している事実が認められるが、当時、組合員が国鉄の施策に反対を続けていた国労に不安を感じて脱退したこともうかがわれないではなく、それ故右脱退の事実をもって直ちに人材活用センターへの配置と関連するものと結び付けることはできないこと、前記のごとく国鉄においては当時余剰人員が大量に存在し、国鉄事業が分割・民営化されるまでこれらの人員を活用する方策が当面必要であることから、人材活用センターの設置自体の必要性・合理性が認められること、余剰人員が大量に存在する中でこれを活用するための増収施策・経費節減策等として種々の業務が用意され、中には従来従事していた本来業務と直接関連しないものもあるが、厳しい財政状況を幾分でも緩和するため、余剰人員活用策として策定されたという事実を考慮するとやむを得ない措置といわざるを得ないし、また、右の業務の中には増収施策・経費節減策等として有効なものもあったこと、大阪保線所における原告らの人材活用センター配置後の仕事は本来業務かこれに密接に関連するものであり、必要性がないとはいえず、まして、無意味であるとか無益であるとまではいえないものであること、職員管理調書の項目に労働処分の記載欄等があることが人材活用センターへの配属に影響することがあるとしても、右調書作成の主たる目的は、職員個々の勤務実態、すなわち職員の意識・意欲を含めて現状を統一的に把握し、職場規律の総点検を集大成することによって、これを確立することにあり、当時の国鉄の職場の現状に徴すると、これを作成する必要性及び合理性が認められるので、職員管理調書の存在が直ちに国労つぶしに結びつくものとはいい難いこと、原告らのうち、JRグループ各社への採用を希望した者のうち一名を除いてすべてJRグループ各社に採用されており、右の結果からすると、人材活用センターへの配置がJRグループ各社からの閉め出しを意図したものとは必ずしもいい難いこと、以上の諸事情を総合勘案すると、原告らに対する本件担務指定をもって、新幹線総局長及び大阪保線所長又は国鉄が国労の弱体化とJRグループ各社からの排除を狙って原告らを差別して不利益扱い等を行うという意図の下に行った不当労働行為であるということはできない。
(2) 原告らは、国鉄が国労組合員に対して国労脱退工作を行った旨主張し、これに沿う供述(甲五一)や同旨の認定をしている地労委などの救済命令(甲七、一八二)を提出するところ、今右証拠を信用するとしても、前記認定の人材活用センター設置の経緯及び同センターへの職員の配属等に関する事実に徴すると、過去において、国鉄が国労組合員に対し、国労脱退工作を行ったことをもって、これが人材活用センターが設置されたことや国労組合員をことさら人材活用センターに配属することにまで関連しているとは認めるには足りないというべきである。
(3) 原告らは、国鉄役員や管理職員が国労に対する不当労働行為発言をした旨主張するところ、右に認定した葛西国鉄本社職員局次長や杉浦国鉄総裁の発言は、当時の国鉄の危機的状況下における発言であることや、動労などの他組合の大会における発言であることを考慮すれば、右発言をもって国労に対する不当労働行為意思を表明したとまではいえない。また、原告が主張する葛西国鉄本社職員局次長が五月二一日に「‥私はこれから、山崎の腹をブンなぐってやろうとおもっています。みんなを不幸にし、道連れにされないようにやっていかなければならないと思うんでありますが、不当労働行為をやれば法律で禁止されていますので、私は不当労働行為をやらないという時点で、つまり、やらないということはうまくやるということでありまして…」との原告ら指摘の発言をした旨の記載が、また、宮林東京建築工事局次長が八月一一日に「今のところ一〇〇人ちょっと欠けるという脱退者ということで、是非過半数までもっていきたい、とこう思っています」との原告ら指摘の発言をした旨の記載がいずれも甲第六〇号証にあるが、右の反訳文の記載だけからでは、その発言がなされた経緯や趣旨が必ずしも明白ではないし、国鉄及び右葛西自身その発言あるいはその趣旨を否定している(甲六一の1ないし3)ことに徴し、右葛西及び宮林が国労に対し不当労働行為意思を表明したとの事実を認めるには至らないし、右の発言が人材活用センターを設置したことや国労組合員をことさら人材活用センターに配置することに関連しているとまではいえない。
(4) 原告らは、国鉄が希望アンケート調査、広域異動、企業人教育、多能化教育を行ったことを捉えて、これらも国鉄の不当労働行為意思をうかがわせる事実として指摘する。しかし、右認定の事実によると、希望アンケート調査、広域異動、企業人教育、多能化教育は、当時、国鉄が経営改善の努力を行う過程でその一方策として実施したものであり、実施についての必要性や合理性が認められることからすると、右の国鉄の行為を捉えて国鉄の国労に対する不当労働行為意思の現れであるとはいい難いし、まして大阪保線所の人材活用センターの設置及び本件担務指定を行うに当たって新幹線総局長及び大阪保線所長又は国鉄が不当労働行為意思を有していたことを推認させる事実とはいい難い。
また、原告ら主張の現場協議協定の失効、各種闘争に関する処分、雇用安定協定の非締結、損害賠償訴訟の提起と動労に対する右訴訟の取下げ、職場掲示板の使用制限、企業人教育後のグループの形成及び分会の活動等については、右のとおり認めることができるところ、右認定にかかる国鉄の状況、国鉄と国労の関係及び国労の姿勢等を前提として、これらの事実をみると、大阪保線所の人材活用センターの設置及び本件担務指定を行うに当たって新幹線総局長及び大阪保線所長又は国鉄が不当労働行為意思を有していたことを推認させるには至らない。
(5) さらに、原告らは、JRグループ各社設立後も国労に対する種々の差別的取扱の不当労働行為が繰り返されていると主張するが、国鉄が分割民営化され、JRグループ各社が設立された後の右JRグループ各社による国労に対する差別的取扱が、それ以前の別法人である国鉄による人材活用センターの設置や国労組合員をことさら人材活用センターに配置するとの点に結びつくとは直ちにはいえない。
(二) 以上のとおり、本件担務指定は、原告らに対し、新幹線総局長及び大阪保線所長の権限に基づき、国鉄の業務上の必要から設置された人材活用センターへ配属させるためになされたものであって、そこに不当労働行為意思が存在するとは認められないから、本件担務指定をもって不当労働行為であって違法な行為であるとの原告らの主張は採用できない。
四 主たる争点1(三)(本件担務指定は人事権の濫用か)について
1 前記及び右認定の事実によれば、昭和六一年当時、国鉄においては多数の余剰人員が存在し、その対策の一つとして人材活用センターを設置して職員を集中的に配置し、事業の活性化等を図ることは、財政破綻状態に陥りその再建を図ることを要請されていた国鉄として、必要な施策であったし、合理的なものであったということができるし、全国的傾向と同様に余剰人員の存在していた大阪保線所においても、国鉄の右方針に従って人材活用センターを設置したことには、必要性と合理性が認められる。また、原告らに対する本件担務指定は、勤務成績などを基に人選された結果であり、それが恣意的になされたことを認めるに足る資料がないこと、本件担務指定が国労つぶしを狙い、新会社からの排除を意図した原告らに対する不当労働行為であるといい難いことは前記認定説示のとおりであること、大阪保線所の人材活用センターにおける業務内容は、本来の業務あるいはそれと密接な関連性を有すること、人材活用センターへの配置は、従来採られていたようなローテーション方式を取っていないが、これはある程度腰を落ち着けて仕事に就かせるのが妥当であるとの考え方に基づくものであったこと、原告らの人材活用センターへの配属期間は、昭和六二年三月に人材活用センターが廃止されたことによって終了し、結局、さほど長期間にわたらなかったことを認めることができ、これらの事実を総合勘案すると、本件担務指定が人事権を濫用してなされたものとは到底いうことができない。
原告らは、余剰人員は政策的かつ極めて意図的、人為的に作り出されたものである旨主張するが、余剰人員が発生した経緯は前記認定のとおりであり、右の事実からすると、これが政策的かつ極めて意図的、人為的に作り出されたものであるという右主張は到底採用できるものではない。また、原告らは、原告らが余剰人員ではなかった旨主張するが、被告がいう余剰人員というのも原告らが個別に余剰人員であるというのでないから、右主張はその点から失当といわざるを得ないし、また、大阪保線所における余剰人員の存在は前記認定のとおりであって、原告らは、前記認定のような経緯で大阪保線所の人材活用センターへ配属されたのであるから、原告らの右主張が理由のないことは右の説示から明らかである。
また、事案の概要二、3(二)記載の原告らの主張は、一方の見解に基づくものということができるとしても、これに反して国鉄が採った前記認定のような再建策をもって誤ったものであり、その施策の一環としてなされた人材活用センターの設置と本件担務指定を誤った施策を前提にした必要性のないものとの原告らの右主張は、独自の見解であって到底採用することはできない。
さらに、事案の概要二、3、(三)、(四)記載の原告らの主張が理由のないことは前記認定説示のとおりである。
2 以上のとおり、本件担務指定が人事権を濫用した違法な行為であるとの原告らの主張は採用できない。
(主たる争点1についてのまとめ)
以上説示のとおり、原告ら主張の本件担務指定が違法であるとの主張は理由がなく、本件担務指定は不法行為を構成するものでないから、原告らの当初の請求は理由がない。
五 主たる争点2(第一新請求及び第二新請求の追加の適否)について
1 原告らの追加請求原因その一(第一新請求)について
(一) 原告らの旧請求は、被告の被用者である新幹線総局長及び大阪保線所長が本件担務指定をなし、人材活用センターにおいてその業務に従事させたことをもって、不法行為に当たるとし、民法七〇九条又は七一五条に基づき損害賠償を請求するものであるところ、右請求原因は、第一新請求の請求原因事実とは、不法行為の行為態様、行為の行われた時期及び損害発生の態様も異なるから、原告らの第一新請求は、旧請求とは訴訟物を異にするものというべきである。なお、第一次原告らは、第一新請求のうち本件担務指定前の不法行為にかかる事実は既に当初から主張している旨主張するが、第一次原告らが訴状において主張したのは、右の一部である昭和六一年七月一〇日に鳥飼在勤を免じられ、「人材活用センター担当に指定する」との意思表示がなされたとの事実主張があるだけであって、本件担務指定前の不法行為にかかる事実である「人材活用センター担当に指定する」との意思表示が撤回されたが、ほかの勤務を指定されなかったとの事実は主張されていないのであるから、結局のところ、本件担務指定前の不法行為にかかる事実は主張されていないというほかない。
したがって、原告らの右請求原因の追加は、訴えの追加的変更に当たるというべきである。
(二) そこで、右訴えの変更が適法かどうかについて検討する。訴えの変更が許されるためには、旧請求と新請求との間に請求の基礎が同一であることを要するところ、本件旧請求と本件第一新請求のうち本件担務指定前の不法行為とは、行為の時期、内容を異にするが、旧請求は、本件担務指定により人材活用センターにおいて職務に従事させたことが不法行為であるとされるのに対し、本件担務指定前の不法行為は、昭和六一年七月一〇日付けで鳥飼在勤を免じ、かつ、同日付け担務指定の事前通知が撤回されたが、改めて本件担務指定がなされるまでの間担務指定がなされなかったことを不法行為であると主張するものであって、いずれも人材活用センターへの担務指定をめぐって生じた紛争であるということができるから、本件旧請求と本件第一請求のうち本件担務指定前の不法行為とは、請求の基礎を同一にするというべきである。
しかしながら、右訴えの変更は、旧請求についての審理が終局段階に至ってからなされたものであり、本件担務指定前の不法行為に関する審理については、被告側において、右担務指定の事前通知を撤回した事情、その後本件担務指定がなされるまでの間に担務指定がなされなかった事情及びその間の第一次原告らに対する処遇内容等についての主張及び立証準備のために相当期間を要し、更に右事実関係についての立証のために相当期間を要することが見込まれることを認めることができるから、本件担務指定前の不法行為を原因とする請求を追加することによって、著しく訴訟手続が遅滞することは明らかであるといわざるを得ない。
よって、本件担務指定前の不法行為に関する訴えの追加的変更は許されない。
(三) 次に、第一新請求のうち人材活用センター廃止後の不法行為は、人材活用センター廃止後に本件担務指定前と同一の職務に従事させなかったことを不法行為とするものであり、時期的には人材活用センター廃止直後のものであるが、本件担務指定が直接の原因となっているものではなく、本件担務指定の解除を原因とするに過ぎないから、旧請求とは発生原因事実を異にするものであり、請求の基礎に同一性がないといわざるを得ない。
よって、右訴えの変更は許されない。
仮に、右両者について請求の基礎に同一性があるとしても、本件訴えの変更は、旧請求についての審理が終局段階に至ってからなされたものであり、人材活用センター廃止後の不法行為に関する審理については、被告側において、原告らを本件担務指定前と同一の職務に従事させず、新たな職務に兼務発令等して従事させた理由及びその正当性等についての主張及び立証準備のために相当期間を要し、更に右事実関係の立証のために相当期間を要することが見込まれると認めることができるから、人材活用センター廃止後の不法行為を原因とする請求を追加することによって、著しく訴訟手続が遅滞することは明らかであるといわざるを得ず、いずれにしても、人材活用センター廃止後の不法行為に関する訴えの追加的変更は許されない。
(四) なお、原告らは、第一新請求について、既に主張立証を尽くした旨主張するので、現段階において、原告らの右新請求が認められるかどうかについて判断する。
(1) 本件担務指定前の不法行為について
前記の事実に証拠(甲一五三、一五七、原告森山、弁論の全趣旨)を総合すると、新幹線総局長らは、第一次原告らに対し、昭和六一年七月三日、同月一〇日付けで元の職場である鳥飼分所の在勤を免じ、人材活用センター担当に指定する旨の事前通知をしたため、第一次原告らは、翌日、国鉄の苦情処理会議において異議を述べたこと、大阪保線所長は、人材活用センターへの担務指定についての事前通知を撤回したものの、新幹線総局長は、元の職場の在勤を免じる旨の事前通知を撤回せず、同月一〇日、第一次原告らに対し、その旨の発令通知を行ったこと、第一次原告らは、そのため、元の職場には出勤できず、何らの業務指示もなされなかったため、大阪保線所大阪支所の会議室で待機するのみの状態が本件担務指定により人材活用センターへ配置される前日である同月二〇日まで続いたことを認めることができる。
右の事実によると、第一次原告らは、人材活用センターへの担務指定に対し異議を述べたことにより、人材活用センターへの担務指定が一時保留となり、具体的な業務に従事できなかったことを認めることはできるが、それをもって直ちに違法であるということはできず、かつ、右の処置が不法な目的をもってなされたなどの事実を認めるべき資料もないことからすると、いまだ右の事実のみをもって不法行為を構成するとまではいうことはできない。
(2) 人材活用センター廃止後の不法行為について
前記の事実に証拠(甲一五三、一五六、一五八ないし一六四、一六六、一六七、一七〇、一七二、一七四、原告森山、同前田、弁論の全趣旨)を総合すると、原告らは、人材活用センター廃止後の昭和六二年三月一〇日から同月三一日までの間、原告松尾、同池上、同宮下、同上田、同村井、同山田及び同吉川を除くその余の原告らにおいては、営業部に兼ねて所属し、時刻表の運賃計算をするなどの業務に携わったり、三日間、三島学園において教育研修を受けたこと、原告松尾、同池上、同宮下、同上田、同村井、同山田及び同吉川においては、従前の勤務場所とは異なる前記認定の部署へ発令されたことを認めることができる。
右の事実によると、原告松尾、同池上、同宮下、同上田、同村井、同山田及び同吉川は、従前の勤務場所とは異なる部署への発令ではあるものの、原告ら主張のように他職種というわけでないから、これをもって不法行為を構成するものとは到底いうことはできない。また、原告松尾、同池上、同宮下、同上田、同村井、同山田及び同吉川を除くその余の原告らにおいては、営業部に兼ねて所属され、右認定のような従来の職務とは異なる業務に従事したことを認めることはできるが、右の扱いが原告ら主張のように、新幹線総局長らあるいは国鉄において、右原告らを国労の組合員である故に差別的取扱いを行う意図で行ったものと認めるに足りる証拠はなく、ほかに右の処置をもって不法行為を構成する事情を認めるに足りる証拠もない。
よって、原告らの第一新請求は理由がない。
2 原告らの追加請求原因その二(第二新請求)について
(一) 原告ら主張の本件担務指定前の債務不履行、本件担務指定による債務不履行及び人材活用センター廃止後の債務不履行を原因とする請求(第二新請求)は、本件旧請求とは、その請求根拠を異にする請求であるから訴訟物を異にし、右各債務不履行を理由とする新請求の追加は、訴えの追加的変更に当たるというべきである。
そして、訴えの変更が許されるのは、旧請求と新請求との間に請求の基礎に同一性がある場合であることは前記判示のとおりである。
(二) 本件担務指定による債務不履行に基づく請求について
原告らは、本件担務指定による債務不履行に基づく請求において主張するところは、本件旧請求において原告らを本件担務指定によって人材活用センターにおいてその業務に従事させたことをもって不法行為と主張したと同一の事実をもって、労働契約上ないし信義則上の適正配置義務違反があるというものであるから、右各請求原因事実の間には、請求の基礎に同一性があるということができる。そして、本件担務指定による債務不履行に基づく請求原因事実の追加が本件訴訟の終結段階になされたものであって、その点からはいささか訴訟上の信義に反するとの非難を免れないが、後記判示のような右請求の内容及び本件旧請求との関係に徴すると、右請求の追加を著しく訴訟手続を遅滞させるとしてこれを許されないとすることは相当でないので、右訴えの追加的変更は許可することとする。
(三) 本件担務指定前の債務不履行に基づく請求及び人材活用センター廃止後の債務不履行に基づく請求について
(1) 右各請求は、本件担務指定前の不法行為に基づく請求及び本件人材活用センター廃止後の不法行為に基づく請求の追加的変更が許されないとして前記各判示したと同様の理由で、本件旧請求と本件担務指定前の債務不履行に基づく請求との間に請求の基礎の同一性を認めることはできるものの、著しく訴訟手続を遅滞させるものであるから訴えの追加的変更は許されないし、本件旧請求と本件人材活用センター廃止後の債務不履行に基づく請求との間に基礎の同一性を認めることはできず、また、著しく訴訟手続を遅滞させるものであるから訴えの追加的変更は許されない。
(2) 仮に、右追加的変更が許されるとしても、被告が原告らに対し、個別的に適正配置義務を負っていることを認めることができないことは後記説示のとおりであるし、また、本件担務指定前の債務不履行として主張する行為及び人材活用センター廃止後の債務不履行として主張する行為が違法といえないことは前記認定説示のとおりであることからすると、いずれにしても原告らの本件担務指定前の債務不履行に基づく請求及び人材活用センター廃止後の債務不履行に基づく請求は理由がない。
六 争点3(第二新請求のうち、本件担務指定による債務不履行を理由とする請求の当否)について
原告らは、本件担務指定による債務不履行に基づく請求原因として、国鉄には労働契約上ないし信義則上の適正配置義務があると主張する。
よって案ずるに、国鉄は、原告らに対し、使用者の有する労働契約ないし就業規則に基づく人事権の行使として、広範な裁量権に基づき職員を勤務場所に配置することができるものであるところ、右配置に関し、国鉄が右人事権に基づく裁量権を濫用したような場合には、それが違法な行為と評価される場合はあるということはできるが、それ以上に労働契約上の付随義務としても信義則上の義務としても、従業員を適正に配置すべき義務を従業員に対し個別的に負っているものということはできないし、これを負っていることを認めるべき資料はない。
したがって、本件担務指定にはこれを違法とすべき人事権の濫用の事実を認めることができないことは前記認定説示のとおりであるから、原告らの本件担務指定による債務不履行を請求原因とする請求は、理由がない。
七 結論
以上の次第で、原告らの当初の請求(旧請求)及び第二新請求のうち、本件担務指定による債務不履行に基づく請求は理由がないからいずれも棄却し、本件担務指定による債務不履行に基づく請求を除く原告らのその余の新請求の訴えの変更は不適法であるから、右訴えの変更は許されない。
(裁判長裁判官松山恒昭 裁判官黒津英明 裁判官太田敬司)
別紙<省略>